全国的にサーフィンの名所として知られる愛知県田原市の太平洋沿岸。良質の波を求めて集まるサーファーを狙って、かつては車上荒らしの被害が絶えない場所だった。サーファーらが立ち上げた自衛組織の活動で、最近は被害が激減している。
「カギどうしている? 車上荒らしがあるから、気をつけてね」
5月下旬、田原市赤羽町の太平洋ロングビーチでは100人近い人がサーフィンを楽しんでいた。駐車場から海に向かう人を見つけ、真っ黒に日焼けした男性が声をかけていた。サーファー集団「安全波乗(なみのり)隊」のメンバーだ。
元々、ビーチに集まるようになったサーファーグループのメンバー。近くでサーフショップを経営する隊長の加藤昌高さん(64)が、サーファーを狙った窃盗被害をなくそうと自主パトロール組織を立ち上げた。11年目を迎えるが、今も30~60代の15人が活動する。
サーフィン中に海中で車のキーを紛失しないよう、多くのサーファーがキーをタイヤの上など車外に隠し置いていた。海に入ると最低でも1時間は戻らない。その隙に車上狙いや車両盗難の被害に遭うケースが多発していた。
県警田原署によると、波乗隊の活動が始まる前の2005年、田原市の太平洋沿岸では年間約60件の車上荒らしがあった。活動開始後は被害件数が減少傾向にあり、10年以降は多い年でも6件で、16年はゼロだった。
隊の活動の信条は「頑張らないこと」だ。隊員たちはサーフィンに訪れたついでに、見かけたサーファーらに注意を促す程度だ。加藤隊長は「続けないと意味がなくなる。せっかく来てもらって、嫌な思いをしたらもったいないから」と言う。
ほかにも、警察からビーチ付近で起きた車上荒らしの情報を受けると、サーファー向けの携帯サイトに配信する。人出がピークになる夏場は、警察や海上保安部などと車の施錠を呼びかけるチラシを配布する。開田裕二・田原署長は「ここまで車上狙いなどが減ったのは波乗隊のおかげ」と感謝する。
2020年東京五輪の正式種目になったサーフィンは、県内でも根強い人気だ。9月には田原市のビーチで世界選手権に相当する「ワールド・サーフィン・ゲームス」が開かれ、安全な大会運営が求められる。波乗隊の活動にも、ますます期待がかかりそうだ。(山本知佳)