12年ぶりの甲子園に挑む高知商の最大の武器は強力打線だ。第100回全国高校野球選手権記念高知大会の決勝では、猛打で明徳義塾の9連覇を阻んだ。打ち勝つ野球は強くて柔らかい「肉体」が支えていた。
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「こんなに打たれたのは初めて」。高知大会決勝後、明徳義塾の絶対的エース市川悠太君(3年)はぼうぜんとした表情で県立春野球場を去った。150キロ近い直球を誇り、昨秋の明治神宮大会で優勝。今春の選抜にも登場し、プロ野球のスカウトも注目する。
この全国屈指の右腕を高知商は打ち崩した。市川君は準決勝まで自責点1だったが、決勝は高知商打線に被安打14で10点を失った。
高知大会の4試合で計30得点。チーム打率は3割9分1厘。12年ぶりの夏の甲子園出場にも梶原大輔部長は平静だ。「予定通りや」
「走り込み」やめて筋トレ
打撃重視の路線は2015~17年にかけて上田修身監督と梶原部長が就任してからだ。梶原部長は野球を統計学的に分析する「セイバーメトリクス」に関心があった。打撃、走塁、守備、投手の要素で考え、「打撃が勝利に与える影響が最も大きいようだ」と自分なりに結論づけた。
昨秋の県予選での敗退を機に肉体改造に本腰を入れた。「体が変われば、動きが変わる」。シンプルで合理的な判断だった。
野球の伝統的な練習「走り込み」をやめ、ベンチプレスやスクワットといった筋肉トレーニングに替えた。体重管理も徹底し1日2回は必ず測定。1日7食とプロテインの摂取で、ひと冬で平均約8キロ増量した。高知大会準決勝でランニング本塁打を放った山崎大智君(2年)は、スクワットで用いる重量が50キロ増えて120キロにまでなった。
練習後にストレッチ40分
柔軟性にもこだわった。練習後に40分ほどかけて肩甲骨や股関節などストレッチを入念にする。打撃や投球は重心移動が伴い、可動域の確保は大事だ。走る際にブレーキの役割を果たす大腿(だいたい)四頭筋をゆるめ、走塁にキレが増した。
決勝で3安打2打点の前田貴友君(3年)は「市川君の直球に力負けしなかったし、股関節の柔軟性で低めの変化球に対応できた」と自信を深める。
「夏に全ての照準合わせた」
梶原部長は「夏に全ての照準を合わせた」と語る。
昨秋からのトレーニング計画では、11~4月の半年間は筋肉を大きくする「筋肥大」の時期。パワーをつけるため単純に筋肉を成長させる。5月以降はバーベルなどの重量を軽くして素早く反復させることで「使える筋肉」に変換した。
この計画にはリスクがあった。筋肥大の期間は体が大きくなるが、俊敏に動きにくい。本来なら春の県予選から始まる野球シーズンには「使える筋肉」で臨む必要があった。
だがあえて初夏まで「筋肥大」のトレーニングだけを続け、ぎりぎりまで筋肉を増大させた。それでも選抜出場した明徳義塾と高知の強豪校が春の県予選に不参加だったため、万全の状態でなくても県予選を勝ち抜き、優勝できた。そして迎えた夏の高知大会。春よりも格段に動ける体に仕上がった。(加藤秀彬)