待っていたのは、外角の速球。「必ず来ると思っていた」。同点の九回2死一、二塁。左打席に立った慶応の宮尾は、マウンド上の中越の左腕・山田を見つめていた。
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慶応打線の鍵を握っていたのは、この1番打者だった。一回は左前安打で出塁し、後続の適時打で生還。三回も内野安打を放ち、一時勝ち越しとなる本塁を踏んだ。中越の本田監督は「彼を止めないと、と思った」。
中盤以降、中越は対策を打つ。宮尾の打席では先発の右腕山本に代わり、左腕山田がマウンドへ。「宮尾封じ」の小刻みな交代は、実に5度に上った。
「(山田には)タイミングが合わなかった」と宮尾。五、七回と2打席連続で凡退。特に七回は外角の133キロに手が出ず、見逃し三振に倒れた。
だから、九回に入った3度目の対戦では「負けたら全部自分のせい」と自らに重圧をかけた。今春の選抜大会は、彦根東(滋賀)の好左腕増居を攻略できずに敗れた。自身も無安打。夏に向け、左投手への準備を重ねてきたプライドがあった。
カウント3―1。中越バッテリーの狙いは四球覚悟の厳しいコース。だが、それがわずかに甘く入る。「ボール1個分。しまった、と思った」と山田。外角の135キロ。やられていた球を宮尾は逃さない。踏み込んでたたいた。
鋭い読みと、力強いスイングで中前にはじき返し、二塁走者がサヨナラの本塁へ。「最高です」。相手の勝負手を破り、第2回大会(1916年)の優勝校が好発進した。(吉永岳央)
○森林監督(慶) 選抜大会では初戦敗退。「甲子園で勝ったことで、掲げてきた『捲土(けんど)重来』は果たせた。新たな四字熟語を考えます」
○生井(慶) 失策で追いつかれたが八回途中まで力投。「球威が衰えていた。ただ、何とかなるぞと切り替えた」