いざ決戦へ、応援もスタンバイOK――。第100回全国高校野球選手権記念大会(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)で、三重代表・白山高校の初陣が11日に迫った。人口約1万1千人の町は準備期間が短い中、対戦相手の強豪愛工大名電(西愛知)に応援で負けじと、アルプススタンドを盛り上げるために奔走した。
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アフリカン・シンフォニー、タッチ、狙いうち……。8月上旬、津市白山町の市白山総合文化センターしらさぎホールに、高校野球応援曲の音色が響いた。
白山高の吹奏楽部員は8人。顧問の林歩美教諭(27)が声をかけ、白山中、美杉中、久居農林高の吹奏楽部、地元アマチュアバンド「Jazz Band HAKUSAN」のメンバーも甲子園に駆けつける。
「ハイテンションでやるしかない」。この日の合同練習で、林教諭が特に力を入れた曲目は「サンバ・デ・ジャネイロ」だ。ハイテンポなリズムに乗り、応援団が「アゲアゲホイホイ」と言いながら踊る人気上昇中の曲。即席楽団は、音色をぴたりと合わせた。
林教諭に吹奏楽の経験はなく、楽譜の勉強から始めた。愛工大名電は吹奏楽も名門だが「心意気は負けないようにしたい」。吹奏楽部の村沢将太さん(3年)も「野球部の重圧を消し心に伝わる演奏がしたい」。
「Jazz Band HAKUSAN」からは、高校生から60代まで約30人が参加する。バンドマスターの伊東達也さん(31)は「一生に一度あるかないかの経験。一丸となって応援したい」と意気込む。
試合当日は、生徒や学校関係者と一般を合わせた約2千人がバス約50台に分乗し、甲子園に駆けつける。
同校では応援グッズも制作した。スクールカラーの緑色を基調にしたTシャツ、メガホン、タオル、キャップ、うちわ、ステッカーがセット。Tシャツなどには、辻宏樹主将(3年)が優勝インタビューで語った「日本一の下克上」という文字もあしらった。
企画に関わった上高原博教諭(58)は「辻選手が話した『日本一の下克上』という言葉が全国に広がり、その勢いに乗ってこのフレーズを採用した」と話す。
応援セットは同校を直接訪れ、一口2600円の寄付をした人に配った。4千個を用意したが、8日には全て配り終わった。(広部憲太郎、村井隼人)
生徒実習先の店開放 中継観戦
65歳以上が4割を占める白山町の住民も、応援を盛り上げるために動いた。
冨田智さん(76)は、1959年創立の白山高校の2期生だ。以前の仕事の取引先を中心に、3日間寄付を呼びかけて回った。
東拓司監督(40)の人柄にひかれ、野球部のファンになった。「練習を見に行くと、監督は『いつもありがとうございます。ファウルボールに気をつけて下さい』と声をかけてくれる」
自身もアルプス席の熱気に加勢する。「長い間野球部をつぶさに見てきた。最後まで応援したい」
6期生で、学校に近い立町区の区長の鳥屋尾(とやお)健一さん(71)も甲子園に向かう。「気持ちだけは高校生に戻れそうな気がします」。区内約60軒のほとんどを訪ね、応援を呼びかけた。学校周辺の各区も同じように観戦者を募ったという。「後輩は感動を与えてくれた。一人でも多く一緒に応援したい」
学校の隣にある県立一志病院も医師と看護師を2人ずつ派遣し、熱中症対策などで応援団を支える。
6年前に着任した四方哲院長(49)は、同校の校医でもある。「最初は部員が少なく寂しい印象だったが、どんどん活気づき、今春の健診で部員数が50人以上と聞いて驚いた。甲子園では選手を応援しつつ、救護対応を万全にしたい」
「甲子園に行きたいけど行けへんで……」というお年寄りの声に応えたのが、同校近くの衣料品店「やまちょう」だ。市がしらさぎホールで行うパブリックビューイング(PV)とは別に、店舗2階を開放して観戦の場を設けた。
プロジェクターやスクリーンを借り、衣料品店らしくハンガーに鈴を付け、みんなで振って盛り上げる。
店は同校の生徒の実習先で、引率で家庭科教諭の川本牧子・野球部長(40)が訪れることもある。店を営む園佳士さん(40)は「選手たちにあれだけの感動をもらった。何かしてあげたかった」と話した。(里見稔、高木文子)