はつらつとしたプレーに、球場が温かな拍手で包まれた――。三重代表の白山は11日、初戦に臨み、愛工大名電(西愛知)に0―10で敗れた。三重大会で一昨年まで10年連続初戦敗退から、この夏、聖地に駆け上がった白山の挑戦が幕を閉じた。
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大量リードを許した八回表に1死一、二塁の好機を作ると、スクールカラーの緑一色に染まった一塁側スタンドから、大きな拍手がわき起こった。「0―10で負けてもスタンドは背中を押してくれた。甲子園はやはり目指すべき場所だと思いました」。東拓司監督(40)は感無量だった。
1960年創部の白山は津市中心部から車で1時間弱の山あいにある県立高校で、昨年までの三重大会最高成績は8強。東監督が赴任した2013年、部員は5人程度でグラウンドも草だらけ。草むしりから始め、「野球が好きな子がいれば白山に」と中学を回った。
16年に入部した現3年生は、県内外の野球強豪校の入試に落ちた「再募集組」が多かった。1番の栗山翔伍君(3年、遊撃手)も受験に失敗。「野球ができるならどこでも」と、再募集で白山に合格した。「人数も少なくてやばいと思ったけど、最初から試合に出られるから野球を楽しめるかも、と思った」
部員にとって当初、甲子園は現実的ではなかった。東監督は自らマイクロバスを運転し、年150以上の練習試合を重ねて鍛えた。昨夏の三重大会で11年ぶりの勝利を挙げ、秋と春の県大会は8強に進んだ。
先発9人のうち、4人が身長160センチ台。度重なる練習試合で培った打力とタフさで体格差をカバーした。今夏の三重大会は3回戦で第3シードを破り、勢いに乗って決勝は快勝。辻宏樹主将(3年)は優勝インタビューで「日本一の下克上を達成できました」と胸を張った。
栗山君は三重大会で6失策したが、初の甲子園では好守を連発した。「入学した時は夢のまた夢だった甲子園で、能力以上のプレーができた。本当に奇跡みたい。白山に来て良かった」
小学校で野球チームに所属した川本牧子部長(40)もあこがれの甲子園の土を踏んだ。「夢の舞台はあっという間でした。選手にありがとうと言いたい」
初出場に地元も沸いた。学校はバス50台を出し、学校がある人口1万1千人の津市白山町などから約2千人が甲子園に詰めかけた。ブラスバンドには周辺の中高や地元のジャズバンドも加わった。辻主将の父、川中隆宏さん(44)は試合直後、「よくやった」と涙ぐんだ。「外野席で立って応援してくれた人もいてびっくりした。幸せすぎます。白山は家族みたいなもん。選手は良い経験になったと思う」と話した。(甲斐江里子、三浦惇平、広部憲太郎)