「プロ野球に入りたいという思いがある。まだまだ基礎体力や技術が足りない。もっと力をつけたい」
甲子園の全試合をライブ中継 「バーチャル高校野球」
優勝を決めた21日の決勝の後、根尾昂(あきら)君(3年)が口にしたのは、偉業を達成した満足感よりも、次の挑戦に向けた緊張感だった。
今年の3年生では、今大会3本塁打の外野手藤原恭大(きょうた)君やエースの柿木蓮君、身長190センチ左腕の横川凱(かい)君も、高校卒業後のプロ入りを思い描く。社会人野球や大学進学を含め、「全員が今後も野球を続ける」(西谷浩一監督)という。
中学時代に日本代表を経験するなど、才能の原石が多く集まる大阪桐蔭。その選手たちが慢心せず日々の練習に取り組める理由の一つが、常に「次のステージ」を意識させる指導法にある。
大東市龍間の寮にある食堂には、社会人野球に進んだOBの活躍を伝える記事や、プロ野球に進んだOBのサイン入りユニホームなどが飾られていて、選手たちの刺激になっている。
さらに今年5月には、横浜まで遠征して昨秋の明治神宮大会を制した日体大と練習試合で対戦。石川瑞貴君(3年)は「大学生は追い込まれても簡単にアウトにされない。レベルの差を感じた」といい、普段の練習から粘り強さを意識するようになったという。
情報や実体験を通して自分たちの実力を客観視できていたからこそ、選手たちはおごらなかった。
周囲に「最強」と言われることをどう思うか聞くと、どの選手からも「自分たちは最強じゃない」「高校レベルで勝てているだけ。まだまだ下手です」という答えが返ってきた。この志の高さが、今年のチームの強さの原点だったと思う。
そして、世代が変わる。
優勝翌日の22日午後から動き始めた、1、2年生の新チーム。中野波来(はる)君(2年)が主将に、宮本涼太君(同)が副主将に就いた。
今夏の甲子園でベンチ入りした2年生は中野君と宮本君だけで、宮本君が準々決勝で途中出場したほかは出番がなかった。中野君は「春夏連覇の喜びに浸る暇はない。自分たちの代は経験値が少ない分、練習の1分1秒を大事にしてうまくなっていくしかない」。
9月に開幕する秋の近畿大会府予選で早々に敗れることがあれば、来春の選抜大会出場は絶望的になる。宮本君は「先輩たちのような実力はないから、危機感を持って戦う。相手の嫌がる野球で勝ち上がって、全員で甲子園に優勝旗を返しにいきたい」と意気込む。
視線のはるか先にあるのは、史上初の選抜大会3連覇、さらには2年連続の春夏連覇だ。「最強世代」から重いバトンを託された後輩たち。新たな偉業への挑戦が、もう始まっている。(遠藤隆史)