福岡市博多区の「トリニティクリニック福岡」が4月におこなったアルツハイマー病治療のための自由診療の再生医療が、国に届け出た計画と異なる方法で実施されていたことがわかった。健康被害は出ていないが、クリニックは「認識が甘かった」として治療を一時中断した。
クリニックや厚生労働省によると、この再生医療は、アルツハイマー病患者の脂肪から採取した幹細胞を数週間かけて培養し、患者の静脈に点滴するもの。マウスで症状が改善した報告があり、米国で治験が行われているが、ヒトでの効果は確立していない。10回の投与で患者負担は1千万円以上かかるという。実施するには、医療機関が計画をつくり、厚労省が認定した専門家委員会で安全性審査を受けたうえで厚労省に届け出るよう、再生医療安全性確保法で定められている。
クリニックは、計画が4月11日に厚労省に受理されたことを受け、翌12日に韓国人患者4人に幹細胞を投与した。「数週間培養する」とした計画との食い違いに気づいた専門委が問い合わせ、数年前に韓国で別目的のために採取・保管していた患者自身の幹細胞を転用していたことが判明した。専門委の指導を受け、直後に医療を中断したという。
その後、計画を修正するなどして新規患者の治療を再開。これまでに約20人が治療を受けているという。
梁昌熙(りょうまさき)院長は取材に対し、「治療に関する見解の相違があったが、我々の認識が甘かったと深く反省している。治療を望む患者の声にこたえたかった」と話した。専門委の委員長を務める米満吉和・九州大教授(バイオ創薬)は「法令順守に対する考え方が甘く、同様の事例が二度と起きないよう指導していきたい」と話している。(竹野内崇宏)