雨が降り続いていた。 広島駅から車で1時間強の山あいにある広島県安芸高田市。7月6日の夕方、日系ブラジル人2世のニシモリ・ヨシカズさん(70)と妻のエリアネさん(59)は途方に暮れた。 「平成最悪の水害」となる西日本豪雨の影響で、市内全域に避難勧告が出ていた。職場から車で15分の自宅へ向かったが、道路が冠水して進めなくなった。 日系ブラジル人の市非常勤職員に、その日3度目の電話をかけた。「助けて」。他に頼る相手はいなかった。駆けつけた別の職員の誘導で、避難所になった文化センターへ向かった。 でも、入り口の前までいったのに、中に入ることができなかった。 エリアネさんがポルトガル語で理由を話す。「外国語で会話やお祈りをしたら、日本人に迷惑をかけてしまうと思った」。ふたりはコンビニの駐車場に止めたワゴン車内で、手をつなぎ、眠れぬ夜を明かした。 ニシモリさんは1990(平成2)年に来日した。「戦後日本の外国人政策の転換点」と言われ、日系人に初めて就労制限のない在留資格が認められた年だ。 昨年2月には念願の一軒家を建てた。同じ地区には他に20世帯が暮らすが、常会(じょうかい)(町内会)には加入していない。「案内が来ない」と夫妻は言う。災害時の連絡網からも漏れていた。 昨年会長だった佐々木美加子さん(55)は「断られたと思っていた」。サークルのようなものがあると伝えたが、日本語が不自由な夫妻はけげんな顔をした。それで勘違いしたという。 「差別するつもりも偏見もない。けど、ふだんの生活でもどう接したらいいのか、遠慮する部分があった」。ニシモリさんの名前も、知らなかった。 夫妻が25年間働く食肉加工会社「サイコー物産」専務の片岡耕一郎さん(49)も、ふたりの孤立を把握していなかった。 1964年創業の同社では現在、作業員約50人の半数が外国人。主に県内のスーパーや料理店に卸している。「従業員は高齢化し、若者は来てくれない」と片岡さんはいう。20年前には日系人が1割程度だったが、08年に技能実習生を受け入れ始めた。 同じ年に就任した浜田一義市長(75)は、外国人の積極的な受け入れが必要だと訴え続けてきた。「このままでは日本は滅びる。外国人に頼る以外に道があるなら教えてほしい」 その安芸高田市で今年3月、ある騒動が起きた。(藤原学思) 「日本人への税金の投入が先だ」「犯罪や生活保護受給者が増える」――現住外国人の定住を進める市の施策が報道されると、市役所に150件の電話が殺到したといいます。 ■「日本人への税金の投入が… |
外国人の定住施策に抗議殺到 市長「生き残りに必要だ」
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