プロ野球・西武ライオンズの10年ぶりとなるリーグ優勝が近づいてきた。現時点で開幕から1度も首位を譲っていない。今季、チームの投手陣を引っ張ってきたのは、間違いなくエースの菊池雄星投手(27)。担当記者が、その左腕の印象的なシーンを振り返った。
荒々しい菊池雄星を見たのは1度きりだった。8月3日の日本ハム戦。1―3で迎えた七回2死二塁で、交代を告げられた。イニング途中での降板は今季初。戻ったベンチでグラブを投げつけた。唇をかんでマウンドをにらみつける姿に勝利への執念を感じた。
でも、普段は全然違う。今季から西武担当になった私が感じた一番最初の印象は、「気遣いの人」というもの。新外国人がなじめるようにと英語で話しかけたり、自分が対戦した打者について後輩に教えたり……。その姿は、まさに“優等生”だ。
そのエースとしての振る舞いを破ってまで見せた、8月の別の顔。5月に負傷離脱し、その後も強力打線に助けられる試合が多かった。白星から遠ざかった時期とも重なった。自らへのふがいなさが、爆発してしまったようにも見えた。
その時、菊池の父・雄治さんの言葉を思い出した。「色々な苦しいことを経験し、そのたびにはい上がってきた。不器用な野球バカ」。子供の頃から見てきた人にしか言えない、厳しくも愛情ある言葉。チームを引っ張る立場、エースと呼ばれる地位になっても、らしさを失わない。それが、菊池雄星なのだろう。(2018年 西武担当・大坂尚子)