阿蘇谷の中ほどにある熊本県阿蘇市黒川の上西黒川地区で、地域を一つの宿・体験施設として観光客を迎える取り組みが始まった。広場や空き地を遊び場や図書館、談話室に活用。宿泊する人と住民に開放し、交流も楽しんでもらう。熊本地震で建物を失ったゲストハウスのオーナーが住民に呼びかけて実現した。
JR阿蘇駅の近く。昔ながらの農村集落の雰囲気が残る一角に、宿の「フロント」を兼ねた「地域談話室」はある。宿泊客はここでチェックインする。といっても建物はない。キャンピング用トレーラーを置き、周りにウッドデッキを設けただけ。泊まるのは、地区内のゲストハウス(簡易宿泊所)か、ホテルの相部屋(ドミトリー)だ。
滞在中は、山々を見渡す空き地にベンチや本箱を置いた「青空図書館」や、公民館横の広場などを住民と同じように使える。談話室ではウッドデッキにいすを並べてくつろいだり、七輪でバーベキューをしたりして交流できる。
準備を進めてきたのは、談話室がある場所で、16年4月に熊本地震が起きるまでゲストハウス「阿蘇び心」を経営していた吉沢寿康さん(44)。広島県出身の吉沢さんは2001年に旅行会社を退職し、バイクで全国を旅行。朝晩や四季で変化する阿蘇の景色や人々の温かさが気に入って広島県から移住した。ライダー向け宿泊所の運営やまちづくり、観光に携わった後、12年に民宿だった木造平屋の建物を改修して「阿蘇び心」をオープンした。地震前の1年間は国内外の3600人が宿泊し、夜はテーブルを囲んだ交流で盛り上がった。
だが、熊本地震で建物が半壊。修復は難しく、解体した。熊本市や福岡市の系列のゲストハウスで仕事を続けながら、阿蘇での再開を模索していた。
「再建せずに再開する」と思い…