大阪のそろばん収集家が数年前、インターネットオークションで古いそろばんを入手した。そろばんの裏には全159字が刻まれていた。歴史学者の磯田道史・国際日本文化研究センター准教授(47)と一緒に、記者がその文章を追っていくと、160年余り前の江戸時代末期に、ある事件が起きた場所へと行き着いた。
オークションで8千円
そろばんは木製で長さ60センチ、重さ2・5キロ。外枠の一部は破損している。大阪府豊中市でそろばん塾を営む珠算史研究学会副会長の大垣憲造(けんぞう)さん(73)が2012年ごろ、ネットオークションで8千円で購入。大垣さんによれば、外枠の組み方から播州(兵庫県南西部)で制作され、大きさから商家で使われたものらしい。
そろばんの裏には文字が刻まれ、「未曽有之(みぞうの)地震」などの漢字が読めた。記者は大垣さんからこの話を聞き、地震などの災害史に詳しい磯田さんに実物を見てもらった。
磯田さんに文字を読んでもらうと、そろばんは「先代助右衛門(すけえもん)」から受け継ぎ、旧暦安政元年11月5日(1854年12月24日)の地震による津波で「南海」(紀伊半島や四国沖)に流され、2年後に「灘村(なだむら)」の田んぼから掘り出され、持ち主に戻ったと刻まれていたことが分かった。
さらに、磯田さんは津波の高さ…