今年は104人がプロの世界に招かれた。25日にあったプロ野球の新人選手選択(ドラフト)会議。目玉の一つ、今夏の甲子園で史上初となる2度目の春夏連覇を果たした大阪桐蔭からは、4選手が指名を受けた。最後に名前を呼ばれたのが、エースで夏の優勝投手となった柿木蓮(かきぎ・れん)。その胸中を追いかけてみた。
選ばれるか、ドキドキ……
4人がプロ志望届を出した大阪桐蔭。同じ高校から4選手が指名されれば、2001年の東京・日大三高以来、5度目で最多タイとなる。そんな期待が高まっていたドラフト前日。一人だけ不安を口にする選手がいた。「選ばれるか、ドキドキ……。ほんまやばいっす。選んで欲しいです」。柿木は祈るように言った。
打者を見下ろすようにマウンドに立つ。豪快な投球フォームは迫力満点。投じる直球の最速は151キロをマークした。甲子園の打者たちを牛耳ってきた右腕は、この夏、昨年と今年、春の選抜を制したときにはなれなかった優勝投手に。負けん気のあふれる投球が光り、9月のU18(18歳以下)アジア選手権の日本代表でも投手陣の柱を担った。そんな大阪桐蔭のエースでも、「運命の日」だけは勝手が違った。
このとき、すでに同期の根尾昂(あきら)と藤原恭大(きょうた)には、1位指名を公言する球団があった。柿木は焦っていた。「藤原や根尾みたいに1位が公表されているわけじゃないんで」。チームメートの間には、自然とドラフト関連の話題が増えていく。「近づくにつれて、不安が高まるというか、ほんまに選ばれるんかって。そういう世界でやっていけるのかなって」。志望届を出してから、寮での就寝前に目をつぶると、そんな考えが堂々巡りした。仲間がドラフトの話題を出すことに「嫌だなぁ」と思うようにもなった。
ライバルたちが上位指名
悩みながら迎えたドラフト当日。1位指名で根尾には4球団が、藤原には3球団が競合した。それは柿木にとって、想定内。驚きは、その後にやってきた。柿木よりも前に、左腕の横川凱(よこがわ・かい)が巨人から4位指名を受けたのだ。エース争いでしのぎを削ってきた存在だ。「真面目で負けず嫌い。色んな意味で一番意識している相手」と認める左腕が、先にスポットライトを浴びた。
残るは柿木だけになった。「贅沢を言える立場でもないし、選んでくれれば一番いいですけど、欲を出すなら上位でとってほしいなと思います」と語っていたが、「呼ばれない間はひやひやしていて。横川が先に呼ばれて余計にドキッとして、ドキドキが強かった」。柿木は、横川より先に呼ばれると思っていた。「(記者会見場に)自分がスタンバイしていて、スタンバイしていない横川が呼ばれて、正直びっくりしました」と振り返る。
ほどなくして、柿木は5位で日本ハムに指名された。表情は和らがない。「球団が下したことなので何も言えないですけど、シンプルに悔しさっていうのがすごい強かったです」
足のサイズは30センチ 成長の余地
指名順位がドラフトの全てではない。柿木はそれを理解した上で、現段階の各球団の判断を正面から受け止めた。「自分の評価が低かったというのは事実。そこをひっくり返せるような力を出していきたいです」
昨夏の甲子園、1―2で仙台育英にサヨナラ負けを喫した。先発した柿木は最後の場面もマウンドにいた。あれから1年、春夏連覇を経て18歳の心は強くなった。立派な体格も、30センチに及ぶという足のサイズから、まだまだ大きくなる気配を感じる。そして、プロでなによりも大事な『負けたくない』という気持ち。その反骨心を、柿木はこのドラフトで再び手に入れた。
日本ハムの1位は、日本代表でエースの座を競った吉田輝星(こうせい、秋田・金足農)。ドラフト直前は少し弱気な部分も見せたが、ライバルの存在が大きいほど燃えるのが柿木。プロでの成長が楽しみでならない。(小俣勇貴)