在日キューバ大使が10月、米ヒルトングループ系列のホテル「ヒルトン福岡シーホーク」(福岡市中央区)に宿泊しようとしたところ、米国の経済制裁の対象国の外交官であることを理由に、宿泊を拒否されたことが分かった。ヒルトン側は「米国企業として、米国の法律を順守した」と説明しているが、国籍による宿泊拒否は日本の旅館業法に抵触しているとして、福岡市が行政指導をした。
キューバ大使館は、旅行会社「東日観光」(本社・東京)を通して予約。旅行会社側は、宿泊者が大使であることを宿泊の数日前にファクスでホテル側に伝え、「お待ちしています」と返信もあったという。
ところがカルロス・ペレイラ大使と大使館員が10月2日に宿泊しようと福岡入りしたが泊まれなかった。旅行会社側に当日、「キューバの要人は泊められない」とホテルから電話で連絡が入ったという。また10月11日にはホテルから旅行会社に「キューバ政府を代表するゲストのご宿泊をお受けすることができない」との文書が届いた。
一方、キューバ大使館は10月5日、外務省に宿泊拒否の件を伝え、「恥ずべきことだ。(米国の法律を日本国内で適用することは)日本の主権も侵害している」などと伝えた。
外務省は、旅館業法を所管する厚生労働省に連絡。同法第5条は、伝染病にかかっている場合や、違法行為や風紀を乱す行為をするおそれがある場合など以外は宿泊を拒んではならない、と定める。同省は国籍を理由とした宿泊拒否は法に触れると判断した。
厚労省の担当者は「旅館業法に基づいて営業許可を取っており、日本の法律に従うべきだ」として「福岡市が行政指導をした」と説明している。
ヒルトンの東京の広報担当者は朝日新聞の取材に対し、宿泊拒否の対象を、米国の経済制裁対象国の政府関係者、国有会社や特定の個人などと説明。対象国はキューバのほか、イラン、北朝鮮、シリアなどで、ヒルトンが運営する世界のすべてのホテルで宿泊を禁ずるとしている。ただキューバ大使館によると、大使は4月に福岡シーホークに泊まっているという。
一方、ハイアットやシェラトンなどほかの米国系ホテルチェーンは「こうした宿泊拒否はしていない」と説明している。
行政指導について、ヒルトンの東京の広報担当者は「ご指摘を受け、今後の対策を講じたい」としている。
日本は、米国に対キューバ経済制裁の解除を求める国連決議に賛成。同決議は今年も27年連続で採択されている。
メキシコでは2006年、キューバに経済制裁を課す米国の国内法を理由として滞在中のキューバ政府代表団16人を退去させたメキシコ市内の米シェラトン系のホテルに対し、政府が罰金約120万ペソ(約1300万円)の支払いを命じた。「主権の侵害だ」と米国への反発が広がる中、「国籍によって顧客を差別することを禁じた商法に違反している」と判断した。(平山亜理)