首相の殺害や観光地を狙ったテロ計画は恋敵のでっち上げだった――。オーストラリアの警察が、こんな事件の容疑者の男を逮捕した。ただ、警察はその前に、男によって「テロ犯」に仕立て上げられた留学生を誤認逮捕し、4週間も勾留してしまっていた。
警察発表や地元報道によると、事件のてんまつは最大都市シドニーのあるニューサウスウェールズ州警察が8月31日、大学院の博士課程で学ぶスリランカ人の男子留学生(25)をテロ計画容疑で逮捕したのが始まり。
留学生のノートに首相や外相の殺害やオペラハウスやハーバーブリッジなどの観光地を狙ったテロ計画が書かれていたことを根拠とし、過激派組織「イスラム国」(IS)に感化されていたとしていた。
だが、警察は10月19日に起訴を取り下げた。筆跡鑑定でノートの文字が留学生のものでないと分かったためだ。さらに今月4日になって、オーストラリア人の男(39)を、文書偽造による司法妨害の疑いで逮捕した。男は留学生と1人の女性をめぐって争いがあったとされ、留学生が警察に逮捕されるようにノートを偽造したとみられている。
留学生は保釈が認められる9月28日まで4週間、独房で勾留された。10月にはスリランカに帰国して記者会見を開き、「警察のやり方は専門家といえず、無責任だった。私が学生ビザで滞在するアジア人だから起きた事件だ」と非難した。警察幹部は今月4日、男の逮捕を発表する記者会見で「留学生に起きたことはたいへん申し訳ない」と謝罪した。(シドニー=小暮哲夫)