福島県楢葉町と広野町にまたがるスポーツ施設「Jヴィレッジ」が、2011年の東日本大震災での東京電力福島第一原発事故による休業後、営業を再開して約4カ月が経つ。かつて、サッカーの合宿や大会を中心に年間50万人が利用した「日本サッカーの聖地」。再開後、夏休み中の利用者数は順調に伸びたが、震災前の活況を取り戻すには課題もある。
11月20日、Jヴィレッジの全天候型練習場で第1回のウォーキングサッカー全国交流会が開かれた。高齢者や初心者も手軽にできる「歩くサッカー」を楽しもうと、12都県から約110人の愛好者が集った。主催した総合型地域スポーツクラブ・はらまちクラブ(福島県南相馬市)の江本節子理事長は、「周囲に海も緑も多い素敵な場所に、たくさん芝生のグラウンドがある。多くの人が利用すればいい」と再開を喜ぶ。
Jヴィレッジは1997年、「日本初のサッカーナショナルトレーニングセンター」として誕生。06年ワールドカップ日本代表の練習拠点としても活用された。だが原発事故後は対応拠点として駐車場や東電の社員寮などになり、11面あった芝のグラウンドのほとんどにアスファルトが敷かれた。
それが今年7月28日、約7年半ぶりに再開された。今は天然芝6面と人工芝のグラウンド3面が整う。残り2面は来年4月に再開予定。天候に左右されずに使える屋根付きドームの全天候型練習場も新設された。
芝生復旧などの原状回復費用は東電が負担。全天候型練習場の工費は個人、団体、企業からの7億円の寄付と、サッカーくじの助成金15億円が投じられた。大浴場を設けた新しい宿泊棟の建設は、福島県が20億円を負担した。
出だしは順調だった。事業運営部の猪狩安博さんによれば「7~8月は、延べ6千人が泊まり、震災前の同時期と同水準」。主に関東から、小学生の合宿や高校生の大会で利用され、サッカー以外の競技の大学生の合宿にも使われた。
9月以降は利用者落ち込む
ただ、今後の道のりは険しさが予想される。震災前も集客が課題だった9月以降は、利用者数が落ち込んでいる。一番の課題は、原発事故の風評被害の払拭(ふっしょく)だ。「放射線量は安全な数字が出ている。あとは、『復活している』『実際に利用されている』ということをいかに広められるか」と猪狩さん。
サッカーのナショナルトレーニングセンターは堺市や静岡市にもあり、今やJヴィレッジが唯一ではない。震災前も07年度から09年度は3年連続で赤字だった。17年度決算は、営業再開に向けたスタッフ増員などの経費がかさみ、1億2千万円の経常赤字。運営会社は21年度に経常損益を黒字にさせる目標を明らかにしている。スポーツ関連だけでなく、企業の研修や会議、一般の観光客の宿泊など幅を広げる必要がある。
大きな期待は、20年東京五輪の男女日本代表の事前合宿地となっていることだ。再開にあたって、関東地方でサッカーに関心のある大人や子どもを対象に調査をしたところ、「日本代表が使うと、自分たちも使いやすい」という声が強かった。「トップレベルが使う様子をみんなに見てもらいたい。そして、代表が使うところで自分たちもプレーできるという良さも改めて発信していきたい」と、猪狩さんは話している。(編集委員・中小路徹)
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〈Jヴィレッジ〉 97年、原発増設の「見返り」として東京電力が建設し、福島県に寄贈された。施設は、全天候型練習場は福島県、それ以外は福島県の外郭団体である福島県電源地域振興財団が保有。運営管理は東電、県、日本サッカー協会などが出資した運営会社が行う。17年度は、東電からの施設使用料などで3億4千万円の売り上げがあった。