日曜に想う 編集委員・福島申二
寒気のなかに吐く息も白く、平成を見送る師走である。年の瀬は涙腺のゆるむ人情話がよく似合う。平成の始まった年に話題をさらった「一杯のかけそば」をご記憶のかたもいるだろう。
――大みそかの夜、2人の男の子を連れた母親が、かけそば1人前を遠慮がちに注文する。事情を察したそば屋の夫婦はひそかに大盛りをつくり、1杯を分けあう母子を心で励ました。十数年たった大みそかの夜、夫婦や客が母子に思いをはせる店に、立派に成人した息子2人が母親とのれんをくぐって現れる。
泣かせどころたっぷりの物語は、実話という触れ込みもあって人々の琴線を鳴らした。衆院予算委員会では質問に立った議員が朗読した。議場は静まりかえって、涙をぬぐう閣僚や委員もいた。
大勢を泣かせ、感動させた要素の一つは母と子のたたずまいであろう。描かれているのは「理想の弱者像」とでもいうべき姿である。置かれた境遇で健気(けなげ)につつましく生きるイメージの弱者(あるいは少数者)に世間は同情的だ。
ところが、そうした人たちが声…