約170万人の虐殺に関わったカンボジアのポル・ポト政権が崩壊して7日で40年がたった。プノンペンで開かれた記念式典では、フン・セン首相が平和と発展をもたらした現政権の貢献を強調。節目の年を自らの権威づけに利用する意図がにじんだ。
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フン・セン氏はヘン・サムリン下院議長と黒いベンツのオープンカーに乗り、会場のオリンピックスタジアムで約6万人の観衆を前に手を振った。
「キリングフィールド(虐殺の地)だったカンボジアは、民主的な選挙ができる自由で公平な国になった」。フン・セン氏は年7%前後の経済成長や観光客の増加など、自身が首相を務める30年以上の間にカンボジアが手にした成果を訴えた。会場で行われたパレードには、フン・セン氏らの顔写真や日本政府の支援で建設した橋、中国企業の工業団地など、発展を象徴する写真を掲げた山車も登場した。
ポル・ポト派は1975年に実権を握り、極端な共産主義思想のもと、都市の住民らを農村に強制移住させ、強制労働や拷問、虐殺を繰り返した。病気や餓死を含め人口の2~3割にあたる約170万人が犠牲になったとされる。
もともとポル・ポト派の一員だったフン・セン氏らはベトナムに亡命。78年12月にベトナム軍がカンボジアに侵攻し、79年1月に同政権は崩壊した。
その後も元幹部らが率いる武装勢力が争いの種になってきたが、フン・セン氏は対話によってこの問題を解決したと強調。昨年12月には多額の費用をかけて、その記念碑をプノンペン市内に建設した。
フン・セン氏は7日、「カンボジアの平和を踏みにじろうとする者には断固として立ち向かう」と述べ、対抗勢力を「平和を脅かす存在」のように位置づけて警戒を呼びかけた。
40年たった今も、ポル・ポト政権時代の記憶は人々に生々しい傷を残す。ドゥオン・サボンさん(62)は、同政権下で兄や妹ら十数人の家族を失った。コンポンチャム州のゴム農園で強制労働に従事した20歳のとき、作業のリーダー格だった60代の男性3人が、ある日突然、「古い思想を持っている」と批判され、殺害されたことが忘れられない。「今も宗教の違いなどで憎しみ合う人がいる。相手を排除してはいけないということが、私たちが得た教訓だと信じている」と話した。(プノンペン=鈴木暁子)