熊本県八代市本町1丁目の焼き肉店「炙(あぶ)りやどりぃむ」(吉永美香さん経営)付近から、16日午後9時ごろ出火し、周辺の建物に延焼した。八代署などによると、南北に隣り合う店舗などを含む計8棟延べ約1140平方メートルが全焼した。けが人や連絡がとれない人は確認されていない。
現場はJR八代駅から西に1・6キロほど離れた飲食店やホテルなどが密集する繁華街。警察と消防は一夜明けた17日、合同で実況見分をした。
焼き肉店の隣の家に住む学校勤務の男性(49)は、一緒に暮らす70代の母親から火事の連絡を受けて16日午後9時半ごろ、自宅に駆けつけ、炎に包まれた家を見た。焼き肉店の関係者から「ごめんなさい、ごめんなさい……」と言われたが、返す言葉が見つからなかったという。これから母親と市内の妹の家に身を寄せる予定。「落ち着いて考えられるようになったら、悩みがどっと出てきそうだ」と顔を曇らせた。
火元から数軒離れた場所で42年続く喫茶店にも火の手は迫った。店を営む夫妻は「まさか、こがん燃えると思わんだった」とつぶやいた。消防車のサイレンが聞こえると思ったら「逃げてください」と避難を指示され、貴重品だけ持って外へ出た。消火活動で天井が壊される様子を近くで見守った。「食器も書類も、何もかんも置いてきた。店の中はひちゃかちゃよ」「わざと火をつけたわけじゃない。しょうがないと思うしか」
昨秋に東京から故郷の熊本に戻り、現場のそばで着物店を先月オープンさせた男性(55)は「商品がだめになった。絹はにおいがつくともう駄目だから」と肩を落とした。延焼は免れたが一帯に煙が立ちこめ、焦げた臭いが17日も漂った。(村上伸一、吉備彩日)