2017年の賃金構造基本統計調査で、男性を100とした場合の女性の賃金は73.4にとどまった。格差は1976年以降で最も縮まったものの、依然として先進国では最低レベルだ。背景には、「夫が稼ぎ、妻は家事を担いつつ家計を補う」という古いモデルを前提にした制度や慣習が残り、女性が働き続けることが難しい現状がある。
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関西地方の女性(50)は、賃貸住宅で中学生の娘と暮らしている。会社員の夫とは別居中だ。
週3日の清掃のパートで、月収は6万円ほど。夫から生活費を10万円受け取っているが、5万5千円の家賃、光熱費、食費、医療費などでほぼ底を突く。成人した息子は家を離れたものの完全に自立できておらず、その援助もしている。
高校卒業後、正社員として複数の会社に勤めた。結婚を機に退職し、その後は、扶養家族の範囲で収まるようにパートで働いた。子育てや家計に問題が起きても、夫と話し合いができず、やがて怒鳴られるようになり、別居。家庭裁判所に離婚調停を求めたが、夫が出廷したりしなかったりで、打ち切られた。
そのころから、精神科にかかるようになった。夫からの生活費がいつ途絶えるとも分からない。「自分の収入だけでは、その月さえも暮らせない。一時は娘を連れて死んでしまおうかと考えました」
離婚が成立すれば、児童扶養手当などひとり親向けの支援も受けられるが、今は対象外だ。昨年にはリウマチも患った。通院や娘のサポートで仕事にも支障が出ており、職場に申し訳ない思いを抱えながら日々を過ごす。「自分が至らないからだとは思いながら、どうしたらよいのか、どこに助けを求めたらよいかも分からない」と途方に暮れる。
3歳の娘と神奈川県で暮らす30代の女性は今、正社員をめざして求職している。大学を卒業後、教員などとして働いていた。結婚し、出産を機に退職したが、金銭感覚の違いなどから昨年末に離婚した。
いまは非正規の派遣社員で、収入が少ない月は10万円あまり。祝日が多い月は働く日が減り、収入は減る。「正社員だったら、ゴールデンウィークの10連休が楽しみになるんですかね」。10連休は保育園も休みで、単発のアルバイトもできない。
離婚後、養育費を受け取り続けられる母子家庭は全体の24%。経済観念に難がある前夫が、約束した月9万円を払い続ける保証はどこにもない。安定的に稼げる正社員の口を求めて20通以上の履歴書を送ったが、色よい返事はまだない。面接にこぎ着けても、ほぼ必ず聞かれるのは「残業はどのくらいできる?」。
保育園の送り迎えの時間が決まっているシングルマザーにとって、残業は1カ月に10時間がやっと。夜間の突発トラブルの対応も難しい。「正社員なら20~30時間は残業しないと」。転職エージェントの担当者の言葉が重い。
就職面接のために仕事を休めば、それでまた給料が減る。派遣社員には交通費の支給もない。毎月5千円かかる定期券をみて思う。「自転車で40分かけて通えば、娘と外食できるかな」
早稲田大の橋本健二教授の分析では、夫と離婚・死別した女性の場合、3年後までに7割以上が非正規労働者になる。離婚した女性については、結婚前は53・8%が正社員として働いていたが、この比率は離婚後3年までに17・1%に落ち込む。逆に、非正規の比率は73・2%まで高まる。正規と非正規(パート主婦を除く)では世帯収入に約1・6倍の賃金格差が出るという。
橋本教授は、現代社会は経営者らで構成する「資本家階級」や「労働者階級」などに分けられるとするが、「労働者階級」の中で正規と非正規の間に「裂け目」が入っていると考える。世帯としては収入が安定するパート主婦や専門職らを除いた非正規の新しい階級「アンダークラス」が、労働者階級の下位に生まれていると指摘する。その規模は2012年段階で約930万人と推計され、就業人口の15%にも達する。
アンダークラスの平均年収は1…