(12日、大相撲春場所3日目)
天敵にまたも屈した。大関昇進のかかる場所で、3日目にして土。貴景勝は支度部屋で囲まれた記者にまず取組内容を聞かれた。「まあ……」。言葉が出ない。目を閉じて、ふぅーと息を吐いた。「なんて言うんですかね。切り替えていくしかないと思いますけど」。一瞬見せたしかめっ面からは、押し殺した悔しさがこぼれていた。
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御嶽海には5連敗となった。立ち合いでは、持ち味の馬力を受け止められた。左からいなしにいった際に脇を空けてしまった。両差しを許して、あっけなく寄り切られた。「通用しなかった」。完敗だった。
「3連勝なんて甘くいくとは思っていない。精神的には苦しさは全然ない」。勝っても負けても平静さを装う。そこに22歳の若さは感じられない。
自制心で自身を縛る裏には、もろさが潜んでいる。数々のタイトルを獲得した埼玉栄高時代、突如負けが込んだ大会もあったという。指導した山田道紀監督は「繊細なんですよ。崩れたら、あれほど波がある男はいない」と語る。その上で「精神面をコントロールできるようになってきた」と成長も認める。初優勝を飾った昨年の九州場所では賜杯(しはい)を抱きながらも、笑顔はほとんど見せなかった。
昇進には2桁勝利が一つの目安となる。「そんなに自分のことを強いと思っていない。楽にいくとは思わないです」と貴景勝。初黒星に引きずられるわけにはいかない。土俵だけではない。心の中でも踏ん張っている。(吉田純哉)
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○白鵬 帰り際に遭遇した荒磯親方(元横綱稀勢の里)から「現役中はありがとうございました」とあいさつを受け、「スーツ似合ってるね」と握手。
○御嶽海 貴景勝戦は直近5場所で5連勝と好相性。「いたって冷静でした。相手を引かせることを考えて。狙い通り」
○豪栄道 ご当所大関は平幕錦木を危なげなく退け、3連勝。「まずまず。これを継続していきたい」と納得の表情。
○北勝富士 連敗を止め、新小結で初白星。「安心した。2日目まで内容が悪かったが、これで波に乗っていけたらいい」
○大栄翔 通算0勝3敗だった大関高安から初勝利。2日目の関脇玉鷲に続いて上位陣を下し、「自信になると思う」。
○大翔鵬 新入幕で初白星。「やっと勝てた。新入幕で頑張らないとと変に硬くなっていたのが、今日でだいぶとれた」