高齢女性の社会での活躍に向けた鹿児島市シルバー人材センターの取り組みが注目を集めている。美容講座やファッションショーで会員は急増。かつての経験を生かし、子育てや介護のケアにあたる人もいる。「鹿児島方式」が各地に広がりつつある。
「化粧水はコットンに取って」「チークは頰より少し高い位置に」
鹿児島市で1月30日、60代女性限定のファッションイベント「シニアビューティアップ講座」が開かれ、約150人が集まった。化粧品会社のスタッフが高齢女性をモデル役に、若々しく見える化粧や洋服の着こなしをアドバイスした。
主催したのは鹿児島市シルバー人材センター。センターの藤山幸一理事長(64)は数年前、センターの会員が女性は約800人で男性の半数以下であることに気づいた。60歳以上の市民は女性が約11万人と男性より約2万6千人多い。「埋もれている女性の力を生かしたい」と、女性会員を増やすイベントを企画した。
2017年1月の美容講座を皮切りにファッションショーなどを計4回開催。昨年11月は女性会員が「ダンシング・ヒーロー」の軽快な音楽に乗って歩くファッションショーを開き、「第二の人生を生き生きと活躍出来る舞台 それこそシルバー人材センター」とうたうチラシも配った。
効果は表れ、17年3月に1050人だった女性会員が、今年2月に1437人と増加した。
ファッションショーなど過去3度、イベントに参加した同市の主婦徳永清美さん(71)は「モデル役の女性会員が輝いてみえた。私も親の介護が落ち着いたら入会するつもり」と話す。
1981年に設立されたセンターでは、公園清掃や草刈りの力仕事が多かったが、ここ数年、子育てや介護の需要が増えている。
鹿児島市中山町の「上樋ちぇれすて保育園」。昨年11月、会員の掛上弘子さん(72)が若い保育士に交ざり、園児のおむつをはずし、手を引いてトイレまで付き添っていた。
掛上さんは昨年6月から週2、3回、園で支援にあたる。自身は23歳まで保育士として働き、結婚を機に退職。その後、病院で福祉関係の仕事に携わったが4年前に退職した。「センターで活動する年配の女性が生き生きしている」と聞いて昨春、入会した。
「孫のようで本当にかわいい。毎日元気をもらっています」。おやつの時間に園児を見つめ、掛上さんはほほ笑んだ。
同園の興梠竜太園長(49)は「核家族化で祖父母と触れ合う機会がない子も多い。年配の人と接すると子どもの情緒が安定するように見える」と話す。
藤山理事長は「いまはシルバーの女性の経験や知識が必要とされている。どんどん社会に出て地域を支えて欲しい」と語る。
相次ぐ視察、広がる取り組み
こうした取り組みは各地に広がっている。
鹿児島県鹿屋市のセンターでは、昨年まで2年連続で浴衣のファッションショーやネイル教室を催し、いずれも100人の参加定員を超える盛況ぶり。市役所ロビーに催しの写真パネルを展示。「こんなに明るい雰囲気だと思わなかった」とセンターのイメージが変わり、入会する女性会員が増えたという。
鹿児島市のイベントには、愛媛県新居浜市や愛知県豊川市、福岡市から視察団が訪れた。福岡市では昨年12月、メイクやスキンケア講座を初めて開催。244人が参加し、アンケートで「大満足」「満足」が9割を占めたという。「『いつまでも輝きたい』という思いに応える企画で、これからも女性会員の獲得を目指したい」と担当者は手応えを感じている。
昨年11月のファッションショーを視察した全国シルバー人材センター事業協会(東京都)の村木太郎専務理事は「モデルが生き生きと輝いていた。シルバー人材のイメージを変える大きな力になる」と話した。
厚生労働省によれば、全国のシルバー人材センターの会員数は約71万人。このうち女性は約24万人と全体の3分の1に過ぎず、この割合は過去約20年間変わらないという。
このため同省は来年度予算案で、シルバー人材センター事業としては初めて、女性会員の拡充策を盛り込んだ「生涯現役支援プロジェクト(仮称)」を策定。「高齢女性への戦略的広報」などでセンターに会員の掘り起こしを促す。
高齢者の就労問題に詳しい大正大学地域構想研究所の金子順一特命教授(労働政策)は「地域には介護や保育など女性が活躍できる仕事の需要はあるが、若い世代の担い手がいない。センターが橋渡し役となり、シニア女性に地域で仕事をしてもらえば地域の活性化にもつながる」と話す。