玄米と野菜を中心にした食事法、マクロビオティック。「マクロビ」とも略され、かつてマドンナやトム・クルーズといったスターが実践していることでも注目された。その起源は日本の伝統食や東洋思想をもとに考えられた食事法だ。マクロビの料理教室を20年以上続ける自然食品店「やさい村」(鹿児島市吉野町)の代表、角屋敷まり子さん(60)に話を聞いた。
――どのような料理法なのでしょうか
できるだけ無農薬・有機栽培の穀物や豆類、野菜、海草を使い、旬(季節)を大切にします。調味料は天然醸造のしょうゆ・みそ、自然塩、植物油を使い、野菜のうまみを引き出します。野菜の皮を捨てたり、あくを抜いたりはしません。「一物全体」を食べるという考え方です。化学調味料や白砂糖は原則として使いません。
――肉や魚は使うのでしょうか
コイを使う料理(コイコク)もあるのですが、基本的には肉や魚、乳製品などは使いません。
私自身はたまに頂き物や飲み会などで肉や魚を食べることもあります。マクロビは心身とも元気で楽しく過ごすための生活法です。それ自体が目的ではなく、一つの手段だと思っています。
自分の食生活に問題があると考えている人は、あまり難しく考えずに、季節の野菜中心の食事にするとか、白米に雑穀を混ぜるとか、出来ることをすればいいのではないでしょうか。
――自然食品の店を開いたのは、なぜですか
あるとき、息子2人が通っていた幼稚園で講演会があり、食べ物の添加物の話がありました。「子どもたちに変なものは食べさせたくない」と考え、無添加食品や無農薬野菜がほしいと思いましたが、身近にそういう物を売っている店がない。自分だけでなく、他にもほしい人がいるのではないかと思い、33歳のときに店を開きました。
――主婦から、いきなりの自営業ですね
開店前にご縁があって知り合った、熊本で有機農業に取り組む会の方々から無農薬野菜を仕入れました。
運よく、開店当日に地元のフリーペーパーの取材があって店の存在を広く知ってもらい、県内各地からたくさんのお客さんに来ていただきました。
開店当初のお客さんたちから「マクロビオティックで体調が良くなった」などという話をよく聞くようになったんです。それまでは、その言葉も知りませんでした。
――その後、ご自分でも勉強されたわけですね
指導者によって食材や調理法に若干の違いがあるのですが、私は大阪の「正食協会」というところに2年間ほど、毎月1回通い、その後も協会の料理教室を担当したりして、協会の講師の資格を取りました。
初めて自分で料理教室を開いたのは1998年のことです。自分で主宰している教室のほか、鹿児島県内だけでなく、福岡や熊本、沖縄など各地に講師として招かれています。自治体や保育園、薬剤師さんの会などが呼んでくれます。鹿児島市内では現在、週に2、3回、主宰の教室を開いています。
――今後の目標は
昨年1年間、福岡の薬草料理教室に通い、「おくすり研究会」というNPO法人の資格「薬草料理マイスター」を取りました。今後、料理教室の幅を広げて多くの人にマクロビ料理を伝えていきたい。
――還暦近くになってもつい暴飲暴食をしてしまう記者に食事のアドバイスを
「昨晩、食べ過ぎた」と思ったら翌日は食べる量を少なめにするなど、少しでも心がけて下さい。腹八分目が大切ですよ。(聞き手=神谷裕司)
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〈マクロビオティック〉
「世界が認めた和食の知恵」(持田鋼一郎著・新潮新書)によると、古代ギリシャの哲学者ヒポクラテスの使った「マクロビオス」に由来する言葉。マクロは大きい、ビオスは生命を意味する。明治時代の軍医、石塚左玄が日本の伝統食と「医食同源」の思想をもとに「食養」「正食」として提唱した玄米菜食法を、思想家の桜沢如一(ゆきかず)が「マクロビオティック」という言葉で発展させた。1970年代以降、米国で浸透し、日本に「逆輸入」された側面もあるという。
経歴
すみやしき・まりこ 鹿児島市出身。鹿児島県立鹿児島東高校卒業後、鹿児島相互信用金庫に3年間勤め、退職。結婚して息子2人の育児をしながら1992年、「やさい村」(電話099・244・8061)をオープン。98年、マクロビオティック料理教室を始める。著書に「からだをととのえる季節の野菜料理レシピ帖」(南方新社)。