孤独死をきっかけに始まった鹿児島県鹿屋市のボランティア活動が注目を集めている。ご近所によるご近所のための安価な有償ボランティアだ。そのエッセンスを採り入れようと、各地で動きが広がる。 「調子はどうですか?」「寒くない?」 8日午前、鹿児島県大隅半島にある鹿屋市泉ケ丘町内会にある市営住宅の一室。ベッドに横たわる高齢女性は、支援グループ「泉ケ丘きばいもんそ会」の女性メンバー(65)から語りかけられると、うなずき、笑顔を返した。 この日、2人暮らしの高齢夫婦から依頼された内容は、夫が病院に通院する間、一人きりになる妻の付き添いと話し相手。料金は約1時間で600円。 昨年5月、鹿児島の方言で「頑張りましょう」の意味を会の名にして設立された有償ボランティアの仕組みはこうだ。 利用者と、ボランティアをする「支援者」が事務局に登録。利用者は「たすけあい券」(1冊1千円)を購入し、事務局を通じて仕事を依頼すると、事務局がその仕事にあった支援者をマッチングする。支援者は仕事の対価として利用者から「たすけあい券」を受け取り、事務局で換金。「ご近所力」で助け合うシステムだ。 会が取りそろえたメニューは、付き添いや話し相手のほか、大工仕事や庭仕事など1時間程度の仕事が600円。ゴミ出しや調理、電球交換、代読代筆といった30分程度の仕事が300円で、ニーズに応じて最近ペットの餌やりも加わった。 登録資格は原則、泉ケ丘町内会の住民で年齢制限はない。登録者数は現在、利用者が41~88歳まで十数人、支援者は小学6年~84歳まで15人。当初は月2、3件だった依頼が最近は月6、7件に増えたという。 設立は4年前、町内で起きた、ある孤独死がきっかけだった。「ショックだった」。町内会長で、上薗紀男・きばいもんそ会代表(77)が振り返る。 当初、60歳以上の高齢者を中心に有志約10人で地域を見守る「ふれあい隊」を結成した。そのうえで、つながりの強い地域の特色を生かせないか、市の生活支援コーディネーター豊園千鶴さんらに相談。20回以上会合を重ね、有償ボランティアの取り組みを決めた。 決め手は一昨年7月、町内の65歳以上の住民を対象にしたアンケートだった。9割以上の人が有償ボランティアを希望した。「有償なら頼みやすい」「対等にものが言える」などが主な理由だった。 会合では「人からされたいこと」の意見を求めると沈黙が多かったが、アンケートの「お手伝いできること」の項目には、自らの経験や特技を生かした数多くの仕事が書かれていた。 「書き出された支援の数を見て興奮した。この眠る力を共有すれば地域づくりに生かせる」。豊園さんは感じた。登録者を高齢者だけでなく、住民すべてに広げた。 事務局のある同町内会の集会所で、庭仕事などを終えた80代の男性支援者は言った。「高齢だが、地域に役立てるきっかけがもらえて幸せ。始めた以上、仲間を増やしてもっと頑張る」 ◇ 有償ボランティアの活動は広がりつつある。 沖縄県宜野湾市の市社会福祉協議会は昨秋、「きばいもんそ会」の視察に訪れた。協議会の生活支援コーディネーター赤嶺舞さんは、小学6年生が登校前、近所のお年寄りの家庭ゴミを出す姿に驚いたという。「高齢者の見守りの担い手不足で若い人をどう巻きこむかが課題。子どもと高齢者をつなげるヒントになった」と語る。 1地区の自治会では来年度、有償ボランティアのニーズを探ろうと話し合いが始まる予定だという。 2017年から有償ボランティアを一部地域で取り組む宮崎県新富町も今年2月、視察に訪れた。新富町社会福祉協議会の生活支援コーディネーター相馬まち子さんは、利用者への料理の提供の仕方に着目する。 新富町では利用者宅で調理を代行しているが、「きばいもんそ会」ではボランティア側が調理して届ける。高齢者は体が不自由で調理を嫌がるだけでなく、食欲が落ち、好き嫌いで栄養が偏る人も少なくないという。「第三者が栄養を考えた料理を提供できる。気配りがつまった料理は地域に支えられている気持ちを高めるはず」と言う。 長崎県波佐見町は昨年7月、地域の支え合いを考える催しのパネリストに「きばいもんそ会」の上薗紀男代表を呼んだ。担当者は民間主導の活動について「介護保険の抑制につながる取り組みで行政にとっても魅力的だ」と話す。 ◇ ボランティアに詳しい労働政策研究・研修機構(東京)の小野晶子主任研究員の話 ボランティアは本来対価を目的としないと定義されるが、有償ボランティアに携わる人はお金を目的とする人はほとんどおらず、趣旨は同じだ。謝金は活動を円滑にする知恵の一つで、地域の結びつきを強める取り組みだ。あくまで奉仕で、労働者とならないことが長続きの秘訣(ひけつ)だ。(周防原孝司、加藤美帆) |
付き添いやゴミ出し 「使いやすい」有償ボランティア
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