不正融資が多数発覚したスルガ銀行(静岡県沼津市)は、金融庁からの業務停止命令期間の最終日となる12日、不動産投資向け融資を5月中旬に再開する、と表明した。自らつくった業務改善計画には「未達」がめだつなか、業務再開だけは早々に宣言した――。
スルガ銀が12日に公表したリリースの題名は「業務改善計画の主な進捗(しんちょく)状況等について」。行員が法令をきちんと守るよう研修と教育を徹底し、内部監査態勢も確立したことなどを説明した。反社会的勢力排除の専門部署をつくり、疑わしい取引先は警察に照会して取引解消などを行う、としている。
不動産投資向け融資では、3万8千件ある物件すべての調査結果を5月中旬の決算発表に合わせて公表し、不正の全容を解明する。そのうえで融資業務を再開する予定だとした。不動産投資向け融資の専門チームをつくるという。
だが、不正の責任が認定された取締役を交代させるため、「19年のできる限り早い時期に開く」と説明していた臨時株主総会は「見送る」と表明した。提携に向けて候補先と交渉していて、そこで「役員人事」も議題に含まれるからだという。問題のある取締役を経営体制に残したまま、問題のあった業務は再開されることになる。
創業家との関係解消も不透明だ。ファミリー企業の「融資の全額回収」は「鋭意行っている」とするが、「保有株式の売却」は提携交渉の行方を踏まえる必要があるという。
過剰融資で借金返済が困難になった物件オーナーには「元本カットを含めた対応」をとるよう金融庁にも命じられたが、半年が過ぎた12日の段階でも「早期に基準を確定し、個別の状況に応じて対応する」とし、具体的な時期や手法には触れなかった。
今年3月には、スルガ銀の無担保ローンが怪しい投資話に悪用されていたことも発覚した。お金に困った人が配当を約束され、スルガ銀で借りたお金を男に渡したあとに返済されなくなるトラブルが起きていて、同行は行員の関与がなかったかの調査の結果を5月には明らかにするという。
提携をめぐっては、りそなホールディングス(HD)やSBIHDなどとの間で協議が行われているとみられる。だが、提携交渉の行方は依然として不透明で、経営再建の道筋も見えていない。そんななかで「不動産投資向け融資の再開」は早々に発表された。
スルガ銀の有国三知男社長は昨年秋の記者会見で「投資不動産のニーズがあるか停止期間中に考え、ニーズがあれば前提条件が整ったうえで取り扱いたい」と語っていた。前提条件が整ったと言えるのか。ニーズがあるとなぜ考えたのか。12日に公表されたリリースには、そうした説明は書かれていない。(藤田知也)
スルガ銀が公表した業務改善の主な進捗(しんちょく)
・投資用不動産約3万8千件の全件調査は取りまとめ中。5月中旬に公表して問題の全容を解明する
・不動産投資向け融資は、5月中旬の決算発表後に再開予定。少人数の専門チームを組成
・創業家保有株式の売却と債権回収は鋭意行っている。期限が到来した貸出金は預金との相殺や不動産売却などで順次回収している
・提携について候補先と具体的な協議を行っている。ファミリー企業の保有株式は提携交渉も踏まえて解消する
・不正の責任がある取締役を交代させる臨時株主総会は提携交渉を理由に見送る
・元本カットは早期に基準を確定し、個別の状況に応じて対応する
・個人ローンでの詐欺的商法への行員関与の有無も調査中。結果は5月中旬に知らせる
・反社会的勢力排除の専門部署を設置。疑いがある取引先は警察照会し、取引解消を行う