4月に始まった新たな在留資格「特定技能」の資格を得るための、国内で初めての技能試験が14日、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の7カ所で行われた。受験者は、口々に夢や希望を語った。
この日の試験は宿泊分野。所管する国土交通省によると、761人が申し込み、391人が受験した。すでに日本でアルバイトとして働いている留学生が多いとみられ、国籍別ではベトナムやミャンマー、ネパールが大半を占める。
政府は特定技能で、今後5年間に最大約34万人の受け入れを見込んでいる。
1号の資格を得るにはこの日の試験に加え、日本語能力試験で日常会話レベルのN4以上に合格しなければならない。また出入国在留管理庁の審査もパスする必要がある。この日に受験して資格を得た外国人がホテルや旅館で働くことができるのは早くて夏ごろになりそうだ。
国内での特定技能の試験はこの後、外食業の試験が4月25、26日と6月、秋に実施される予定だ。
それ以外の試験は、国内外ともにどの国でいつ実施するか、まだほとんど決まっていない。
東京
東京の試験会場は、霞が関の国交省で、124人が受験した。宿泊の知識などの筆記試験と接客対応といった口述試験に臨んだ。
インドネシア人のエルマ・スリスティア・ニンルムさん(24)は「コスプレ」をするほどの日本のアニメ好き。技能実習生として2016年4月に来日し、埼玉県内の食品工場で3年の実習を終えた。特定技能の対象である「飲食料品製造業」に無試験で移行できる可能性はあるが、22日の帰国を前にこの日の試験に挑んだ。「人と接する仕事がしたい」。日本のホテルで接客に磨きをかけて、将来は母国でレストランを経営するのが夢だという。
ミャンマーのミョー・ニィ・ヅン・レツさん(38)は、「日本で働く」という8年越しの夢をかなえるため、この日の試験に合わせて来日した。09年4月に日本語学校で学ぶ留学生として初来日した。自動車整備の専門学校でも学び終え、就職先を探している矢先の11年3月に東日本大震災が起きたため、就職を断念して帰国した。日本で経験を積んだ後は「ミャンマーで自分のホテルをやりたい」と期待を口にした。
大阪
外国人観光客のインバウンド景気に沸く関西。大阪会場では、58人が宿泊業の特定技能試験を受けた。国・地域別ではベトナム32人、中国10人、ミャンマーとネパール5人など。試験会場の外では、受け入れを支援する業者がビラを配る姿もみられた。
2年前にベトナムから来日して大阪市の専門学校に通うグェン・ティ・ランアンさん(23)は「試験は簡単だった。来年の春に卒業するので仕事を探したい。宿泊業界で働くかどうかはまだ決めていない」と話した。
ネパール出身で神戸市に住むカンデル・クリスナ・クマリさん(23)は「試験は難しくなかった。日本のホテルで働きたい。20年ぐらい経験を積んだら、ネパールでホテル関連のビジネスをしたい」と話した。
ベトナム人のバ・デイン・テさん(25)は大阪市の専門学校に通いながら市内のホテルでアルバイトもしている。「試験は簡単だった。勉強した通りの問題だった。日本の生活は楽しくて便利だ。合格して、できるだけ長く日本で働きたい」と話した。
試験に立ち会った宿泊業技能試験センターの北原茂樹理事は、外国人観光客が大挙して押し寄せる京都市の旅館経営者でもある。「大阪万博などで観光客は今後も増え続けるが、業界の人手は全く足りていない。ただ、給与は日本人と同水準でも、受け入れのための経費や事務が増えるようならホテルや旅館は簡単には雇用できない」と語った。
名古屋
名古屋の会場では、留学生の大量失踪が問題になっている東京福祉大の学生の姿も見られた。
「これは大阪ですね」
「え? 受けられない?」
受付の職員に促されて、会場を出たのは、東京福祉大4年のネパール人男子留学生(27)。手にした受験票には「大阪」とあった。
「今日はしょうがない。俺の間違いだから」。言葉少なに後にした。
ネパール出身で東京福祉大3年のアディカリ・ロシャンさん(32)は「そこそこできたかな」と、試験に手応えを感じたという。4年前に中学校教師を辞め、母国に妻と6歳の長女を残して来日。本人によると、10万円稼げば、母国では1人が1年間生活できるという。1年半家族と会っていない。「ホテルで働いて、家族を楽にしてあげたい」と夢見る。
これまで技能実習生として工場で働いてきたが、母国では高級ホテルで働いていたという人もいた。
ベトナム人の技能実習生トゥロン・ティ・タムさん(30)はこれまで3年間、普段はプラスチック加工の会社で働いてきた。製造関連の特定技能ではなく、母国で大学卒業後に働いたホテルの経験を生かしたいという。「サービス業は大変だけど、四つ星のホテルで働いた経験があります。日本のお客様とコミュニケーションを取りたいです」。24日に日本を離れるが5月末に試験に受かれば、日本に戻ってきたい。
来年の東京五輪・パラリンピックに期待を掛ける人も。川崎市のインドネシア人留学生インドラ・レスマナさん(27)は「東京五輪には、きっとインドネシアからもたくさんの人きます。フロントやりたいです」と話した。
東京会場の応募に間に合わず、この日早朝、夜行バスで名古屋入りした。幼少のころから日本アニメが好きで、人気作品「ワンピース」にはまった。日本語能力試験では日常会話や記事も読める程度の「N2」。今年日本語学校を卒業し、6月にビザが切れる。この試験にかけているという。
名古屋市在住でベトナム人の会社員グエン・バン・ソンさん(29)も「五輪という大きなイベントが開かれるときに東京で働きたい」と目を輝かせた。
2年前に母国の日系企業を辞めて来日。「N2」レベルを話せる日本語能力を生かし、今は名古屋市内の通訳会社で働いている。
今回の試験を受けたきっかけには、訪日客の増加があった。「外国人旅行客が増えており、ホテルのフロントや接客で自分の力が生かせるはず」と考えた。
「時間が足りない」と嘆く受験者もいた。香港出身で名古屋市在住の男性(35)は今春、日本語学校を卒業したが、留学ビザが残り3カ月で切れるという。
試験結果は5月に発表されるが、「もし落ちたらどうなるかは分からない」という。「本当は介護の分野で働きたかったが、試験がなかった。残念」と話した。(浦野直樹、波多野陽、斉藤佑介、佐藤英彬)