ちょっと変わった発想をもつ名物教員が講師を務める京都大の「変人講座」が、スタートから2年を迎えた。常識を覆す「変人」の発想は「イノベーション」(技術革新)に欠かせないと、産業界からも出張講義を求められることも多いという。講義内容をまとめた本が今月、出版された。
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変人講座は学外からも自由に参加できる公開講座として2017年春に始まった。これまでに11回開かれ、1500人が受講。全体の2割は企業の社員だ。
講座を企画したのは大学院人間・環境学研究科の酒井敏教授(地球物理学)。「変な発想、異質な存在はイノベーションに不可欠。変人の意義を世間に訴えたい」と考え、タレントの越前屋俵太さんとともに始めた。講義では、科学には素人の俵太さんが壇上で講師と問答を繰り返すことで、研究の中身をわかりやすく伝える。
登壇した11人の講師のうち、初年度の6人分の内容が「京大変人講座」(三笠書房、税抜き1600円)に収められた。
たとえば、情報学研究科の川上浩司特定教授(システム工学)は「遠足のおやつは、なぜ300円以内なのか」と問う。
子供たちの期待感が増すのは制約があってこそ。「人は不便じゃないと萌(も)えない」とする「不便益」を提唱する。
陸路がなく、船で渡らないとたどり着けない対岸の旅館がその好例という。自らも携帯電話を持たない不便な生活を実践している。
川上さんは「『不便益』は僕の師匠が言い出したこと。それを継承してこつこつがんばってきた」という。最近は企業から頼まれて出張講義を開くことも多い。川上さんは「目からうろこ的なイノベーションはなかなか出ない。そこに不便益という視点を示すと、その手があったか、という感じでみなさん乗ってくる」と話す。
人間・環境学研究科の那須耕介教授(法哲学)は「安心安全が人類を滅ぼす」と説く。
何かトラブルが起きる度に国に安心・安全の実現を求めることで、人は自ら確認し判断することを放棄するようになったという。大切なのは不安と向き合うこと。先行きのわからない不安さは、実はワクワクという期待感ともつながっているという。
型破りな企画だけに、大学側からストップがかかるのを心配し、酒井さんは当初、大学の公式ホームページなどで周知しなかった。いまは毎回数百人が集まるまでになり、山極寿一総長も学外で宣伝する。
山極さんは、官僚養成校として始まり規則に忠実な東大に対して、規則を破ろうとさえする京大の自由な学風は開校以来120年以上生き続けていると主張する。「同じ質のものが同じ価格で売れる工業化した社会の中で、日本人もまた均質化した。イノベーションを進めるには個性化や、変人のおもろい発想が必要。引きこもり的に抱え込まずみんなでおもろがる。それが変人講座。京大の真骨頂です」と話す。
酒井さんは「なんでも建前通りが求められ、とかくうっとうしがられる変人やアホを許す雰囲気を社会に作りたい」と話す。著書「京大的アホがなぜ必要か カオスな世界の生存戦略」(集英社新書)も3月に出版している。
今春、京大が自主財源確保のために全額出資して立ち上げた新会社「京大オリジナル」が講座の運営に加わった。担当者は「講座のエッセンスを取り入れたい企業は多いのではないか。ワークショップなどの企画を発信していきたい」と話す。(嘉幡久敬)
「ジミヘン」こそ生物進化の本質だと確信
「変人講座」を企画した京都大大学院人間・環境学研究科の酒井敏教授(地球物理学)が、講座開設をめぐる思いを語った。
「変人講座の講師をしてくれませんか」とお願いすると、みなさん決まって「私、変人じゃありませんから」と言うんです。
見た目は変人ぽくなくても、普通の人からみるとやっぱりずれていて、普通の人が言わないことを言う人。そして、こちらがうーんと考え込んでしまうようなことを言う人がおもしろい。そういう人を講師に選んできました。
最初に講義をお願いしたのは進…