大型連休の最終日だった6日。三重・菰野(こもの)のエースの岡林勇希(3年)は、練習試合2試合で一度もマウンドにあがらなかった。ケガをしているわけではない。「昨日投げたんで、今日は投げませんよ。軽めのキャッチボールだけです」
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高校生の肩・ひじを守るには。4月26日、「投手の障害予防に関する有識者会議」が始まった。新潟県高校野球連盟が春季県大会で導入を検討した投球数制限を中心に議論が進む。
ケガの要因の一つが投球過多だ。「練習試合や練習から投球数を考えることも大事では」という意見もある。そうした取り組みを10年以上続けているのが、この公立校だ。
菰野の練習試合での投手起用は、ローテーション制だ。連投させず、球数を見ながら投手を交代させる。週に2日の投球練習も、上限は80球。ノースローの練習日もある。
「練習試合を含めると、1人につき週350球くらいでしょうか。個人差があるので微妙な球数の調整はしますが、練習で絶対に無理はさせない。痛くなってからでは遅いので」。1987年から菰野で指導する戸田直光監督(56)が言う。全投手の日々の投球数を記録してきた紙を手に、こう続けた。「うちで長引くケガをした投手はほとんどいない」
菰野の投球数管理の始まりは、2004年だった。まだエースの連投が当たり前だった時代。戸田監督は「連投のための練習が必要だと思っていた」と振り返る。しかし、夏の三重大会前に2年生エースが肩とひじを痛めた。回復したものの大会では本調子には遠く、4回戦敗退。「指導者たるもの、選手を故障させずに野球をやらせてあげないと。無理をさせて、好きな野球を奪ってはならない」。そんな信念が生まれた。
新チームから投球スケジュールの管理を始め、翌05年夏には甲子園初出場を果たす。手応えをつかみ、故障のリスクを下げるために体調管理や食生活の指導も徹底した。この15年間で改良を重ねつつ取り組んできた。
この夏、エースを争う奥田域太(かなた)(3年)が言う。「痛いとか違和感があると言うのは怖くない。けがして長引く方が怖い」。こんな雰囲気が、プロ野球阪神の西勇輝(28)や広島の田中法彦(18)といった力のある投手を育てた。
さらに徹底しているのが群馬・健大高崎だ。投手はキャッチボールやノックでの送球数も野球ノートに記している。試合は基本的に継投だ。この春、エースナンバーを背負った笹生(さそう)悠人(3年)が言う。「練習では投げ込み禁止で、試合前の調整も立ち投げを含めて50球以内。試合では1人が100球にいけば代わるのが普通なので」
青柳博文監督も、苦い記憶の持ち主だ。選抜で4強入りした12年、春の関東大会でエースが肩を故障。夏は万全な状態で迎えられず、群馬大会4回戦で敗退した。以降、選手の可能性を守るため、故障予防の取り組みを強化してきた。「将来のある人材をつぶしてはいけない。うちは完投できる投手でも、継投させます」
ただ、単に球数を減らすだけが正解ではない。4月21日にあった春季三重県大会準決勝で菰野はいなべ総合との延長戦を制した。先発して9回を投げた岡林の球数は、週の投球目安の半分を超える181球になった。戸田監督は振り返る。「公式戦では思う存分やらせてあげたい。選手はそのために頑張っているんだから。不完全燃焼になったら、悔いが残る。ケガや疲労でそうさせないために、投球数を管理しているんです」
球児も納得できるケガ予防とは何か。最適解を探す日々は続く。(小俣勇貴、竹田竜世)