選手育成とチーム強化の両立に定評がある、J1湘南ベルマーレの曺貴裁(チョウキジェ)監督。かつては湘南のU―18(高校生世代)監督を務めるなど、10代を指導した経験も豊富だ。新たな時代を生きる選手たちを育てる指導の極意とは。そして他競技から見た高校野球とは。
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日々考えないと
時代は平成から令和へ。新時代の指導者像とは。
「子ども、親、学校からいつも見られ、評価されるから、指導者が勉強しないとだめな時代。いい格好をしろということではなくて、何が足りないかを、日記をつけるように日々考えないと立ち向かっていけない。熱中させることも大事。まず必要なのは、自らが子どもを好きになること」
子どもでもプロでも指導は同じというのが持論の曺監督。選手と本音でぶつかり合うのは日常茶飯事だ。
「子どもは『この人本気じゃないな』と思ったら、言うことを聞かない。指導者の姿勢を、子どももちゃんと見ている。心に響かせるには直球が基本。回りくどい変化球ではなく、自分の言葉で話せば、人格がにじみ出て、本気も伝わる。極端な話をすると、言葉はなくてもいいかもしれない。はっきりとは言うけれど、結果だけを見て叱ることはない。スポーツは成功から自己肯定感を高められる。子どもたちができたことの喜びを得るまで、指導者は待ってあげないと」
子どもを教えるうえで気をつけていたことがある。
「たとえば、反則をしてでも相手を止めろ、という悪い指示にもそのまま従うかもしれない。それだけ指導者の影響は大きい。マナーも大事。熱くなって激しいプレーをしても、後で冷静になって謝れるかどうかというようなこと。他人を敬うことはスポーツをするうえで大事だ」
高校野球って、青春
その目に高校野球はどう映っているのか。
「高校野球って、青春。欧米にはない、いい意味でのスポーツを通じた教育だと思う。教育って、そのときに結果が出るものじゃない。選手に野球を嫌いにさせず、完全燃焼させて『青春したな』っていう気持ちで巣立たせてあげる。そういう余裕が指導者にないといけない」
高校野球では、暴力や暴言をなくすための啓発が進む一方で、処分も後を絶たない。
「(指導のために)絶対に言っちゃいけない言葉はある。でも『よくがんばってるな』って言っておいて、一切試合に使わないのもパワハラの一種。だから単なる言葉の問題ではない。それに指導者本人に言えず、通報をして、第三者に裁いてもらうという信頼関係しかできていないことが問題だと思う」
多様な競技が手を取り合う必要性も訴える。
「今もまだ、スポーツよりも勉強ができる人が評価される社会だと思う。『スポーツなんかやってどうするの』という発想はいまだ残っている。これからは『野球対サッカー』ではなく、別々の競技同士がつながることで、スポーツの価値を高めていければ。そういう意味で、自分が高校野球の選手を教えてみるのもいいかもしれない」(構成・高岡佐也子)
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チョウ・キジェ サッカーJ1湘南監督。京都府出身。早大、浦和などでDFとしてプレー。現役引退後は川崎と湘南で中学生世代を指導し、湘南ではU―18(高校生世代)監督をつとめた。2012年から現職。18年にはルヴァン杯初優勝に導く。50歳。