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2018年夏。東日本のある建設会社の社長の男性(70)は、一本の電話をかけた。 「戸惑っているんだよね」 相手は、あおぞら銀行系のM&A助言・支援会社、ABNアドバイザーズ(東京)の担当者。男性はこんな不安を投げかけた。 「他の会社も、こんなに早く進むものなの?」 男性には後継者がいなかった。子供は都会に出てしまっていた。第三者に引き継ぐにも、銀行借り入れの個人保証や株の買い取りといったハードルがある。「M&Aが現実的だろう」。そう考え、18年春にABNと契約した。 ABNが買い手候補探しを始めると、複数の企業が強い関心を示し、どんどん交渉が進んだ。「2~3年はかかるだろう」と思っていた男性は、「心の準備ができていない」と焦った。 後継者がいないため、自社を他の企業に買ってもらうM&A(企業合併・買収)で、会社を残そうとする中小企業経営者が増えています。とはいえ、長年経営を手がけた会社です。売却の決心をしても、いざ手放す段になると気持ちがついていかないケースは少なくありません。 従業員十数人の小さな会社は、半世紀を超える歴史を持ち、地元では存在感がある。男性は20年以上社長を務め、個人客からの修繕の依頼に即応するサービスなど、自らのアイデアで黒字を出してきた。ある程度利益を積み増してから、会社を譲りたい気持ちもあった。 「いったん、中断しよう」 まだ元気で、75歳まで現役を続けられそうだ、と思い直した。 ABNの担当者にそう伝えると、思いがけない言葉が返ってきた。 「今ある『縁』をふいにして、… |
会社売却、一度は決めたが未練が ある小さな社長の決断
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