昨夏の甲子園をわかせた日本ハムのドラフト1位新人・吉田輝星(秋田・金足農高)が12日、1軍デビューする。プロ初登板の相手はセ・リーグ3連覇中の広島で、エース大瀬良の先発が予想される。18歳右腕にとって勝利に向けては難題ばかり。だが、その状況こそ、球団が将来のスター候補に用意した舞台と言っていい。
強い日差しが差し込んだ9日の甲子園。栗山監督はブルペンで投球した吉田輝の話になると、笑顔になった。「本当に何か甲子園のイメージはあるので、場所は(札幌ドームと)違うけど、こういう感じだったなあってところに近づいてきていて楽しみにしている」
交流戦でデビューする構想は青写真として描かれていた。1月の新人合同自主トレから約半年。球団の吉田輝に対する身体的な評価は、ほかの新人と比べても「強い」。高校時代、雪の中を走り込んできた下地がある。走る能力が高く、練習量もこなせる丈夫な体で回復力も高いと判断している。
吉田輝は今季、2軍では9試合で26回を投げ、0勝3敗、防御率4・15。1軍デビューまで2軍で一定の投球回数をこなすなどの綿密な育成プログラムはなかったようだ。4日のイースタン・リーグの巨人戦では3回、被安打6の6失点している。栗山監督は言う。「この間もたくさん打たれたときに、まっすぐにこだわっている姿を見て、こっちはいけると思ったわけだから」。レベルの高い1軍のマウンドを経験させることが、成長への近道と考える。
12日のデビュー戦に向け、栗山監督は続けた。「何も言っていない。好きにやれ、ということ。プロに入ってきて、(プロの常識に)合わせることは全くしなくてよくて。良いから来てもらっているので、まずは自分を出して、これが足りないと思えば、変えれば良いだけだから」。登板後の吉田輝の変化にも期待している。
育成に定評のある日本ハムの基本方針は「スカウティングと育成で勝つ」。最も優れたアマチュア選手を獲得して経験を積ませ、一流に育ててきた。ダルビッシュ(現カブス)も高卒1年目の2005年6月15日の交流戦で1軍デビュー。広島相手に8回を投げ、初登板初先発で初勝利をつかみ取った。「二刀流」だった大谷(現エンゼルス)の投手デビューも、そう。13年5月23日のヤクルト戦。5回2失点で勝敗はつかなかったが、最速157キロの真っすぐでわかせた。
高卒新人の投手デビューは交流戦の札幌ドームで――。日本ハムのスター街道を歩んでいった先達と、その歩みは重なる。
吉田輝はやる気満々だ。チームに合流したのは7日の甲子園から。「(阪神3連戦は)すごい充実した。甲子園で練習ができたことがうれしくて、高校時代に全力でやっていたことを思い出しながらできた。札幌ドームに行く前にいい練習になった」と下準備に手応えはある。
投げ合う相手は今季リーグ最多の6勝を挙げている大瀬良が予想される。吉田輝は「相手のことは気にしていられないが、大瀬良さんは良い投手。点を取られないようにしないと勝利は近づかない。格上の投手ですけど、誰にでも負けるのは嫌なのでしっかり気持ちを持っていきたい」と意気込む。投球スタイルは高校時代のままだ。ファームでも、ほとんど直球だけを投げ、直球勝負で挑んできた。勝っても負けても期待ばかりのマウンドになる。(坂名信行)