人呼んで「マトリ」。違法薬物の捜査にあたる厚生労働省九州厚生局麻薬取締部に、全国初となる捜査部門の女性課長が誕生した。同部の特別捜査課長にこの春、着任した中川しおりさん(47)だ。捜査の現場は厳しいが、数々の経験が中川さんを支えている。
飛び出す捜査員
5月のある朝。福岡市内のマンションの玄関近くに、車数台が次々と乗り付けた。車内で息を潜めるのは、マトリの捜査員たちだ。「10時ごろまでには家を出てくるはず」。同乗する記者の前で、中川さんがつぶやいた。ちらちらと外の様子をうかがいながら、その時を待つ。
捜査線上に浮かんでいたのは一人の男。数カ月前から張り込みを続け、行動パターンをつかんでいた。男が前夜、旅行先から帰宅したことも確認済みだった。
そして午前10時ごろ。マンションの入り口から男が姿を現した。その瞬間、10人ほどの捜査員が車から飛び出し、あっという間に取り囲んだ。男は抵抗する様子もなく、捜査員と一緒に部屋へ戻り、家宅捜索を受けた。男の部屋からは栽培中の大麻や乾燥大麻が見つかり、大麻取締法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕された。
中川さんは、複数の都道府県に…