全国的に猛暑に襲われ、気象庁も「異常気象だった」と認定した昨夏。総務省消防庁のまとめによると、昨年5~9月の熱中症による全国の搬送者数は合計9万5137人で、前年の2倍近くに達した。死者は160人、重症者は2061人に上った。今年は4月29日~6月9日の全国の救急搬送者数(速報値)は計5832人。これからが暑さ本番。熱中症にどう備えたらいいのだろうか。
室内「サウナ状態」エアコンつけず
「手足がしびれる」「頭が痛い」「吐き気がする」
毎夏、暑さが厳しくなるにつれて、名古屋市消防局にはこうした通報が増える。市内では昨年5~9月、計2079人が搬送された。最高気温が35度以上の猛暑日が続いた7月後半には急増したという。
総務省消防庁のまとめによると、熱中症の発症場所で最も多かったのが住宅内で40%。路上が13%、工事現場や工場などの仕事場が11%、学校などの教育機関が7%だった。また、年齢別でみると、搬送者の半数近くが65歳以上の高齢者だった。
名古屋市消防局の担当者によると、エアコンがあるのに使っていない高齢者が多いという。「救急隊が到着すると、室内はサウナのような状態。年を取るとともに、暑さを感じる機能が落ちていく。危険が迫っていても、なかなか気づかないのだろう」と指摘する。
加齢で心臓の機能が落ちている場合は重症化に要注意
熱中症は、体温が上がりすぎることで起きる障害の総称だ。軽い脱水状態から臓器が働かなくなる重症まで含まれる。頭がボーッとしたり、体のだるさを覚えたり、体が思うように動かなかったり、失神したり……。自覚症状はさまざまだ。
暑い日、運動中はもちろん、日常生活を送っていても体は熱を発している。通常なら、手足など体の表面の血管が広がり、空気中に熱を出す。汗も出て、蒸発する時に周囲の熱を奪うこと(気化熱)により体が冷える。それらがうまく機能しないと、熱中症につながる。
気温が高すぎると、広がった血管から空気中に熱が逃げてくれない。湿度が高ければ、汗が蒸発しにくくなる。汗は出るのに体は冷えず、むしろ脱水症状が進むことになる。
汗で体の水分が減ると、その分、血液の量も減る。体のあちこちに血液が行き渡らなくなると、栄養や酸素を運ぶことができなくなり、臓器に障害が起きる。これらが熱中症のメカニズムだ。加齢で心臓の機能が落ちている場合は、なおさら重症になりやすくなる。
熱中症は全国規模の災害という認識を
熱中症のリスクが高いのは、高齢者や乳幼児、肥満の人。二日酔いや寝不足などで体調不良の人も危険だ。糖尿病や心臓病など持病のある人もリスクが高いとされる。
気温や湿度が高い日だけでなく、日差しが強かったり、閉め切った室内にいたりしても危険が高まる。急に暑くなった日も、体が慣れておらず体調を崩しやすいという。
「熱中症は、夏の2カ月という短期間で亡くなる人が大勢出る。全国規模の災害と言える」と指摘するのは、帝京大学の三宅康史教授(救急医学)だ。
「梅雨明け、昼も夜も暑くなると、家の中も暑くなる。そうなると誰でも熱中症になりうる。ただ、注意をして対策を取れば、被害を減らせる」と話す。(木村俊介)