シリア内戦をめぐり、反体制派の最後の大規模拠点、北西部イドリブ県で医療施設を狙った攻撃が相次いでいる。本来、こうした施設の安全確保のために国連が仲介して位置情報を関係国間で共有する仕組みが悪用されている懸念が強まっている。現場の医師からは「アサド政権軍の爆撃に利用されている」との非難の声が出ている。
イドリブ県周辺では4月末からアサド政権軍と支援するロシア軍による空爆や砲撃による攻勢が強まっている。世界保健機関(WHO)によると、一連の戦闘では国際人道法で禁じられている医療機関への攻撃が25施設で確認されている。
シリア内戦では、人道支援施設を職員を戦闘から守るため、国連人道問題調整事務所(OCHA)が2014年9月から、「人道的衝突回避メカニズム」を採用している。現地の人道支援組織からOCHAに寄せられた施設の種類やGPSの位置情報を米国主導の有志連合、アサド政権を支援するロシア、反体制派を支えるトルコと共有する。
運用は任意で法的拘束力はなく、個人や施設の安全を保障するものでもない。ただ、この仕組みがシリアの政権側に悪用された可能性が浮上している。
米国の代表は先月の国連安保理の会合で、「空爆された医療機関のいくつかが、この仕組みのリストに載っていたという事実は極めて憂慮すべきことだ」と指摘。英国の国連大使も、「NGO関係者らが安全を確保するためにあると信じている仕組みが、彼らを破壊するものになるとは、間違いなく異様だ」と非難した。
OCHAの広報担当者は「現地のNGO関係者が情報の共有に慎重になっていることは理解できる」と話すが、何施設がリストに載っていたかは明かさなかった。ただ、医療機関への攻撃について現在検証中で、紛争の当事者が正式に調査できるよう、検証結果を通知するという。
一方、中東情勢に詳しい国連関係者は「現地の医療関係者らは明らかに国連を信用していない。攻撃の主体を特定し、さらに国連の情報が悪用されたと断定するハードルは極めて高い。このままでは、仕組み自体を中止するしかないのではないか」と話した。
■広がる不信、情報共有続ける理…