伝統校の危機を救ったのは1年生だった。その救世主ぶりを「絶好調!」で知られる大先輩も絶賛、熱いエールを送った――。
20日まで神宮球場で行われた東都大学野球の1、2部入れ替え戦。通算2位の27度のリーグ優勝を誇る駒大(1部6位)と、最多の32度リーグを制している専大(2部1位)の古豪対決には長年のファンやOBらが大勢詰めかけた。
そんな中でひときわ輝いたのが、駒大の1年生右腕・福山優希。昨夏、青森・八戸学院光星高のエースとして全国高校選手権に出場し、この春、生まれ育った八戸市を離れて上京したばかりの18歳だ。
駒大は昨季までの主力がごっそり抜けて特に投手力に不安を抱え、リーグ戦は4勝10敗。すべて3投手以上の継投で、完投実績のある投手は一人もいない。
入れ替え戦も、1回戦では登板した5投手がそれぞれに苦しみ、2本塁打を含む計12安打を浴びて3―7で敗退。エース佐藤奨真(3年、関東一)が安定している専大をここから逆転するのは厳しく、がけっぷちの状況かと思われた。
雲行きを変えたのが、2回戦で先発した福山だ。低めを丁寧に、かつ思い切りよく突く投球で8回途中4安打3失点(自責2)。六回に2ランを許したが、7―4での勝利に貢献した。
再び先発した翌日の3回戦の投球は、さらに安定味を増していた。六回、長短打と四球で無死満塁とされたが、続く2打者を中飛と三振に仕留め、内野安打の1失点でしのぐ。9回5安打で完投し、チームは6―1で勝利。1部残留を決めた。
OB会長が絶賛
1年生ながらピンチでも表情を変えず、堂々としたマウンドさばきを絶賛したのが、駒大野球部のOB会長を務める元DeNA監督の中畑清さん(65)だ。
「昨日(2回戦)のマウンドが生きている。相手の弱点を見抜いて、そこを攻めていた。うちにあんな頭のいい子がいたのか」と感激した様子で語り、「もうほんと、後光がさして、後ろに輪っかが見える。思わず拝んじゃったよ。こんな1年生がいるのかと。(入れ替え戦は)リーグ戦なんか比にならないぐらいのプレッシャーがある。大健闘ですよ」。試合後、興奮さめやらない様子でロッカールームを訪れ、福山本人と固く握手を交わした。
大先輩にねぎらわれ、先輩たちからも感謝の言葉を受け続けても、当の本人はいたって冷静だった。
直球の最速は高校時代と同じ145キロ。この1カ月でカットボールやシュートを覚えて投球の幅を広げたことが生きたと分析するが「今日は1点とられて勝ちましたけど、1点とられて負けることもある。打線に助けてもらったのが大きくて、僕はまだまだです」。
大倉孝一監督(56)から「明日、いけるか」と3回戦の先発を言われたのは前夜。「駒沢が2部にいるというのはあっちゃいけないこと。大事な試合を任せてもらえるのはうれしい」。そんな思いで「いけます」と即答。2日で計263球を投げたが、成長途上にある体のケアの大切さもちゃんと自覚している。入学後に環境の変化から体重が約5キロ落ちたといい、「しっかり休んで、また体づくりからしていきたい。秋に向けて今日からスタートです」と表情を引き締めた。
2017年2月に就任し、一時低迷したチームを復活に導いた大倉監督も「福山が完投できるとは思わなかった」とエース候補に躍り出た1年生をたたえながらも、「目指すのは日本一だけなんです。ここを乗り越えた経験を秋につなげたい」。昨秋、優勝決定戦で敗れて届かなかった14年秋以来のリーグ制覇へ、目標を切り替えていた。(杉山圭子)