皆さんの身近な困りごとや疑問をSNSで募集中。「#N4U」取材班が深掘りします。
「SNSで『なりすまし』の被害に困っている女性がいる」。LINEなどで困りごとを募って取材する朝日新聞「#ニュース4U」にそんな情報が寄せられた。ツイッターを通じて女性に連絡を取ると、「私になりすましたアカウントが複数のSNSに同時に現れたんです」と言う。話を聞こうと、取材班の記者が広島へ向かった。
【特集】SNSで声集め、深掘り取材…#ニュース4U
ある日突然「カープ女子」が…
午後5時、JR広島駅で待ち合わせた。近くのマツダスタジアムに向かうカープファンでごった返す駅前に小柄な女性が現れた。
「はじめまして。古田ちさこと申します」。2014年、ユーキャン新語・流行語大賞トップ10に選ばれた「カープ女子」。その代表として表彰式に招かれた3人のうち1人が古田さん(33)だ。
3人は、テレビ局や新聞社から取材された時のカープへの愛情あふれるコメントが「ガチすぎる」とネットで話題を呼び、「カープ女子・神3(かみスリー)」と呼ばれた。
東京都内の会社に勤める古田さん。「カープ女子」として注目された後、プロ野球関連のテレビ番組やイベントへの出演依頼が急増した。今は会社の仕事とタレント活動を両立しながら、1ファンとしてカープの応援を続けている。
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古田さんが、SNSに自分の「なりすまし」がいることに気づいたのは今年4月末。教えてくれたのは友人だった。
「これほんもの?」
友人からのLINEにはインスタグラムの画面を保存したスクリーンショットが添付されていた。アカウント名は「chisako」。「プライベート用仲良しのみ」という説明が添えられ、古田さんがツイッターに載せていた顔写真が勝手に使われていた。
なりすましだ。古田さん慌てて友人に「ぎゃーにせものー!」と返信。友人からは「あぶねーw」と返事が来た。
自分のツイッターで「インスタのこちら(のアカウント)は偽物です」とつぶやくと、2日後、「なりすまし」のインスタグラムのアカウントは消えていた。
偽のLINEアカウントに誘導
だが、「なりすまし」がLINEにもいたことが他の友人からの指摘で分かった。古田さんによると、インスタグラムに偽のアカウントを作った「なりすまし」は、古田さんの本物のインスタグラムのフォロワーに対し、「LINEのIDが変わった」というダイレクトメール(DM)を送信。偽のLINEアカウントに誘導し、LINEでやりとりを続けたという。
「『なりすまし』は私の複数の友人に『眠れない』というメッセージを送っていました。返信すると、『会いたい』というメッセージが来るそうです。そのあと……」と言いかけ、古田さんの言葉が詰まった。そのままやりとりを続けた友人には、ひわいな言葉や画像が送られていたという。
インスタグラム、ツイッター、LINE、フェイスブック。複数のSNSにアカウントを持つ古田さんは、以前にも数回「なりすまし」の被害に遭ったという。
偽のアカウントに気づいたことをSNSで発信すると、「なりすまし」は間もなくネットから消えた。だが、球場で面識のないカープファンから「メッセージありがとう」と声をかけられたこともある。「どうやら『なりすまし』を私だと信じている人もいるようです」。古田さんは「いったい何が目的なのか。大切な人間関係や自分のイメージを勝手に壊されていると感じます」と話す。
プロレス団体、悪役レスラーも被害
困っているのは個人だけではない。
新日本プロレスは今年3月、団体の公式ツイッターや所属するレスラーたちのSNSの「なりすまし」が現れたとして、注意喚起する文章を公式ホームページに掲載した。
広報担当者によると、新日本プロレスは2012年にスマートフォンゲームなどを手がける「ブシロード」(東京都中野区)の傘下に入り、レスラーにもツイッターなどで自ら情報を発信することを奨励した。その結果、SNSを活用する選手が増えた一方、3年ほど前から「なりすまし」の被害も増え始めたという。
「なりすまし」にはその都度、DMで警告するなどしているが、いたちごっこが続いてきた。
今回被害に遭ったのは、あるベテランの悪役レスラー。相手は新日本プロレスの団体アカウントをブロックしており、DMを送ることもできなかった。そこで公式ホームぺージを使って注意喚起したところ、多くのファンがツイッター社への「通報」に協力してくれて、「なりすまし」アカウントは凍結されたという。
「レスラーは自己プロデュースが大事な仕事。SNSも重要な役割を占めており、『なりすまし』には頭を悩ませている」と広報担当者は言う。
運営各社、アカウント停止や永久凍結も
「なりすまし」の被害に遭った場合、どうすればいいのか。SNSを運営する各社に取材すると、いずれも「個別のケースについてはプライバシーの問題から答えられない」と前置きした上で次のような回答があった。
インスタグラムとフェイスブックはそれぞれの利用規約で、他人になりすますことを禁止している。両社の広報を担当するPR会社によると、「なりすまし」アカウントを発見した場合、ホームぺージやアプリを通して両社に報告すれば、専任のチームが内容を確認し、必要と認められればアカウントを停止するという。ツイッターでも「なりすまし」は禁止されており、報告があった場合、独自の調査をし、必要と判断すればアカウントを永久凍結するなどの対応をとるという。
LINEも被害があった場合には窓口に通報するよう案内している。同社広報は「知人など、人間関係がある人からのなりすましは回避が難しい」と説明。なりすまし防止のため「別のSNSなど、不特定多数の人が参照する場所に自分のLINEアカウント情報を掲載しないようにして欲しい」としている。
弁護士「スクショで証拠残して」
ネットやSNSのトラブルに詳しく、ユーチューブで法律解説の動画を公開している久保田康介弁護士(32)=兵庫県弁護士会=は、「SNSで自分の『なりすまし』を発見した場合、まずは画面のスクリーンショットを撮影し、証拠を残してください」と助言する。
ネット上の写真を使えば誰でも簡単に「なりすまし」を始めることができる。逃げるのも簡単だ。対処しようと思った頃には『なりすまし』アカウントがすでに削除されていることもある。そこで、まずは証拠を残すことが必要だと久保田さんは強調する。
久保田さん自身、記者が取材を申し込んだ数日前に自らの「なりすまし」がいることに気づいたという。自身は使っていないインスタグラムに、自分の顔写真を勝手に使って「久保田オフィシャル」を名乗っているアカウントがあることをツイッターのフォロワーが教えてくれたのだ。
「なりすまし」アカウントに名誉毀損(きそん)や不法行為は見られなかったものの、「不穏な動きをするようなことがあれば、弁護士として全力で戦います」と久保田さん。「なりすまし」が「犯罪予告をしたり、金銭を要求したりすれば、すぐに警察に相談するべき」と助言する。
なりすましに気づくためには、ネットで自分の名前を検索するいわゆる「エゴ(自己)サーチ」を定期的にするべきだという。「SNSをやっていない人こそ要注意。本人のSNSだと勘違いされても、訂正することができない。幅広い世代がSNSに接する機会が増えているので、定期的にチェックしてほしい」
いたずらやマナー違反のような書き込みでも、弁護士に相談すれば、相手を特定して裁判をし、認められれば書き込みを削除することもできる。ただ、「相談内容によりますが、数万~数十万円の費用がかかり、期間も半年以上かかることがあります」。
「デジタル・タトゥー」の怖さ
SNSトラブルや、インターネットを通じた企業の風評被害対策に取り組む河瀬季(とき)弁護士(37)=第二東京弁護士会=はこう指摘する。「ほとんどのなりすましは、対象へのあこがれや愛情の裏返しで迷惑行為を行う一般人。一部、まぎらわしいサイトに誘導するなど営利目的の場合もあるが、警告さえすれば迷惑行為をやめることが多い」
ただ、「なりすまし」が送ったうそのメッセージが他のSNSや掲示板に転載されると、一気に拡散する「炎上状態」を引き起こす可能性があるという。
「SNSや掲示板の書き込みは、真実かうそかに関わらず、拡散されると『デジタル・タトゥー』となってネットに残り続けます」
「デジタル・タトゥー」とは、ネット用語で、多数のサイトに拡散され、削除することが難しくなった書き込みのこと。河瀬弁護士によると、メッセージはワンクリックで拡散出来るが、削除はSNSの運営会社などに1件1件申請が必要で、全てを削除しない限り新たに拡散される可能性が残るという。
「有名なSNSだと対処法もはっきりしているが、海外の会社が運営する掲示板などに拡散するとたちまち対処が難しくなる。早めに動くことが大事です」
河瀬さんは、個人や企業の依頼を受け、月100本以上の書き込みやWEBサイトの削除に取り組んでいる。裁判を行わずに対応することも多く、書き込んだ人が特定できれば直接警告し、そうでなければ掲示板の管理人やサーバーを管理する会社に働きかけ、迷惑な書き込みを削除させることもあるという。
「ITの発達で、個人も会社もSNSとは無関係ではいられない世の中になった。被害者に全く非がなくても行われる『なりすまし』は負の側面だ。繰り返される場合は、拡散される前に公式ホームページや自身のアカウントで注意を呼びかけるなど対処してほしい」(高橋大作)
「なりすまし」被害にあったときの報告窓口
◆フェイスブック
https://www.facebook.com/help/fakeaccount
◆インスタグラム
https://help.instagram.com/contact/636276399721841?helpref=faq_content
◆ツイッター
https://help.twitter.com/forms/impersonation
◆LINE
https://contact-cc.line.me/ja/
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