「礼!」。練習後、新潟明訓の部員60人が帽子を脱いでグラウンドに一礼すると、伸びた髪がふさっと揺れた。丸刈りじゃない。1月、全員で「脱丸刈り」を始めたのだ。
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甲子園出場8回。野球漫画「ドカベン」の明訓高校のモデルとして全国に知られる同校が大胆な変化を図ったのは、危機感からだ。昨年、公式戦0勝。「どん底を見た」という指導歴30年超の野球部長、波間一孝(53)にコーチの今井也敏(38)が昨秋、「(丸刈りを)そろそろ、やめませんか」と切り出した。
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以前から髪形の規則はないが、ほかの多くの高校野球部と同じく、同校も「高校野球=丸刈り」の中にいた。しかし、それが部の力をそいできた面もあった。
中学野球部でエースだった新入生が、「坊主にしたくない」と入部を断っていった。「髪形は野球の本質じゃない。嫌がって入らない子が1人でもいるなら、丸刈りにこだわる必要なんてない」と波間。今井の提案に乗り、OB会長の了解も得て昨年末、部員に「みんなで挑戦しよう」と呼びかけた。
大半の高校生と同じ「丸刈り以外の髪形」にする試みだが、主将の岸本大輝(3年)は「他人と違うことをする分、責任感も増した」と話す。高校野球の常識からはみ出すことで、試合で負けたり生活態度が悪かったりすれば、「髪なんて伸ばしてるからだ」と言われかねない状況になったと思った。
今春の県大会、新生・新潟明訓は1年半ぶりに公式戦で勝利し、4回戦まで残った。波間は「髪を伸ばしたら勝てるというわけではないが、新たな価値観を発信できた」。この春の新入部員は、昨年とほぼ同じ21人だった。
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地上波テレビのプロ野球中継が珍しくなり、野球人口が減る中、高校野球部の間口を広げようと取り組む指導者は少なくない。小千谷西の監督で、県高校野球連盟の監督部会長も務める松坂章(53)は、「時短」だ。
同校の打撃練習は、グラウンドに背を向け、本塁の後ろにあるバックネットに向かって打つ。球拾いの手間を省き、平日も休日も「2時間」と決めた練習時間を有効活用するためだ。
40年近く前、高校野球部員だった松坂は午前5時半に家を出て朝練をし、午後8時半に練習を終える生活を送ったが、「『俺の時はこうだった』と昔の経験則を押しつけるのは、上手な指導じゃない」という。
小千谷西は選手13人。主将の片桐輝也(3年)は「試合は1~2時間で終わる。短時間で意味のある練習をした方が効率的」という。外野手の北原渚(3年)は「僕たちだって、自由な時間はほしい」と明快だ。午後7時には帰宅して、家族と夕飯を食べ、テレビを見たり、スマートフォンをいじったりする。「うまく息抜きができるから、練習も楽しめる」
「今の子は、理由が分からないことはやらない」と考える松坂は、練習前に必ず狙いを説明する。試合翌日に走って汗を流すのは体の新陳代謝を促すため。バドミントンのシャトルをバットで打つ練習は、ゆっくりした動きでフォームを確かめるため――。「時代は変わっているのに、指導者の意識だけ変わらないのは、おかしいでしょう」
日本高校野球連盟によると、県内の昨年の野球部員は2843人。過去10年で2割減った。=敬称略(中村建太)