野球経験者の視点から、選手たちを見つめるマネジャーが増穂商業高(山梨県富士川町)にいる。
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3年の小林比菜乃さん。5月下旬、「貼り替えるたびに、本番が近づいていると実感します」と話し、グラウンドのスコアボードに「あと38日」と書かれた紙を貼った。
増穂商として出られるのは最後となる夏の山梨大会。意識を高めるため、監督の中楯奨太さん(27)の発案で開幕までのカウントダウンを始めた。
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小林さんは野球をしていた2学年上の兄、柊平さん(19)の姿を見て、小学2年生から野球を始めた。中学も野球部。「体力がないと思われたくない」と男子に負けじと練習し、サードのレギュラーとして試合に出場した。
ずっと「甲子園」にあこがれてきた。中学3年になり、進路についてたくさん悩んだ。県内の高校に女子野球部はない。県外で野球を続けるか、ソフトボールに転向するか……。
選んだのが増穂商の野球部マネジャー。自宅から通えて、野球部に兄がいた。そして、何より甲子園。「女子はグラウンドに立てないのはわかっていたけど、やっぱりあの場所に行きたいと思った」
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入部当初は、選手がプレーするのを見ていると、野球をしたくてむずむずした。でも、マネジャーになるのは自分で決めたこと。「野球の経験があるからこそできることをしよう」と気持ちを切り替えた。
野球初心者の1年生には基本の動きを教え、ティーバッティングのトス上げも積極的にする。「比菜乃のトスは練習しやすい」と言ってもらえると、「役に立てているのかな」とうれしくなる。
試合のときには、選手の性格に合わせて声をかける。緊張しやすい選手には明るく話しかけ、気持ちをほぐす。集中力を高めてからグラウンドに立つタイプの選手には、話しかけずにそっと見守る。
「ミスをしたり、思うようなプレーができなかったりする時の悔しさは痛いほどわかる。慰められるとイラッとするのもわかる」。自分の経験に照らし合わせて考えてきた。
捕手の名取凌君(3年)は、同じ南アルプス市の中学校出身。ともに野球部で戦った仲間だ。
どんな投球も後ろにそらさないようにするため、自主練習も欠かせない。小林さんにショートバウンドを投げてもらうこともある。「『今のどう?』と聞くと的確なアドバイスをくれる」と感謝し、「勝って恩返しをしたい」と気合が入る。
自らを「本当に負けず嫌い」と言う小林さん。3年生7人、2年生1人、1年生5人、選手13人で挑む最後の夏。「弱いって言われるのは本当に嫌。『増穂商は弱かった』と言われないように、みんなには頑張ってほしい」
マネジャーをやり遂げたら、また、野球をやってみたいと思い始めている。(玉木祥子)