立ちくらみが増え、息苦しくなって倒れた。ストレスが原因と指摘された症状について、家族がある病名を疑い、専門の医師につないだ。山梨県立富士河口湖高3年の古谷大地君は、よくなった体調を確かめながら、野球ができる幸せをかみしめている。
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「大地、いま打ってるの相手だよ」
2年生だった昨年4月の練習試合。ベンチから仲間の攻撃を応援しているつもりだった。しかし、バッターボックスにいたのは相手チームの打者だった。すると、急に息苦しくなり、その場に倒れ込んだ。
病院に搬送されたが、暑い日だったため、熱中症かもしれないと診断され、点滴を打って帰宅した。
倒れた試合、三塁手として出場していた。体がだるく、三つのエラーをしてしまう。藤城真監督(50)は交代を命じた。
体調不良の前兆はあった。数カ月前、朝、起きられなくなり、立ちくらみも多くなった。近所の病院で検査してもらったが、異常は見つからなかった。
その後、授業中に倒れることが多くなり、救急搬送されたこともある。ある日、「起立性調節障害」と診断され、医師は「精神的なストレスがあるのでは」と説明した。
野球はできなくなった。「なんでこんなことになるんだろう」。ストレスと言われても思い当たることはない。原因がわからないことが怖かった。
夏の甲子園をめざす昨夏の山梨大会はスタンドから見つめた。途中、手がけいれんし、球場の外で休憩した。初戦敗退。先輩は「大地を笑顔にしたかった」と声をかけてくれた。「絶対治して来年こそ出る」と自らを奮い立たせた。
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病院を転々としたが、ストレスと言われるばかり。母かおりさん(42)はインターネット検索で必死に同じ症状を探した。
そんな時、出てきた病名が「脳脊髄(せきずい)液減少症」。わずかな望みをかけ、この病気に詳しい医師がいる静岡県の病院に向かった。診断してもらうと、かおりさんの推測は当たっていた。何らかの衝撃で脳や脊髄から髄液が漏れて発症し、激しい頭痛やめまいがあると教えられた。
昨年8月、漏れている部分に自分の血液を注入するという治療をした。症状は良くなり、10月ごろから野球の練習に参加できるようになった。体を動かせるのはもちろん、仲間が温かく迎えてくれたことが何よりうれしかった。
以来、体調は安定している。発症から短期間で治療にたどり着けたことがよかったと医師に言われた。
「自分は本当に恵まれている。親をはじめ、支えてくれた部員、先生たちに感謝したい」
7日、第101回全国高校野球選手権山梨大会が開幕。富士河口湖は13日に東海大甲府との初戦を迎える予定で、背番号7の古谷君は待ちわびた試合に臨む。(玉木祥子)