高校生最速の163キロを投げた佐々木朗希(ろうき)(岩手・大船渡)だけじゃない。甲子園で活躍した奥川(おくがわ)恭伸(石川・星稜)や西純矢(岡山・創志学園)をはじめ、150キロを超える豪速球を持つ投手はまだいる。
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そのうちの1人が右腕の谷岡楓太(ふうた)(広島・武田)。「160キロは自分がこの世代で一番早く出したかったので、悔しかった」。最速は152キロだ。周りからは「動画マニア」と呼ばれている。
中3では125キロが最速で、有名な選手ではなかった。進学先は、野球の強豪ではなく大学進学を見据えて私立の武田を選んだ。勉強時間の確保や寮の決まりのため、平日夕の練習がわずか50分間なのは入学して初めて知った。「最初は楽だなと思っていたけど……」。武田ならではの環境が、27キロもの球速アップにつながった。
「野球の練習はもったいない時間が多い。使えるものをうまく使って効率的にやれば、この短い練習時間でも十分に成長できる」と岡崎雄介監督(37)。その「使えるもの」が学校から全生徒に支給されるタブレット端末だった。
主に学習用だが、部内ではプレーを動画撮影するなど、分析ツールとしても使っている。「好きなものにはとことんハマるタイプ」(岡崎監督)の谷岡は動作解析にのめりこんだ。個人のスマートフォンも併せて使い、自らの投球動画をSNSで外部のトレーナーに送り、フォームやトレーニングのアドバイスを受ける。「正しい動きを常にチェックしてもらえるのはありがたい」。授業の合間でも寮でも動画に見入り、1年秋に143キロを記録。その後も球速を伸ばした。
今では目標を「プロ」と言い切れるほどになった。最後の夏に向けて言う。「まず、155キロが目標。チームに流れを呼び込みたい」
近年、野球の科学的な研究が進むのに伴って、トレーニング方法も進化。直球の高速化にもつながった。そのうえで、動作解析が専門の筑波大・川村卓(たかし)准教授は動画が果たす役割について、「教える側も教わる側も、視覚でイメージを共有できることが一番のメリット。誰でもどこでも情報を手に入れられるYouTubeのようなメディアの力は、大きい」。動画を気軽に見られる環境が、進歩した技術やトレーニング方法の普及を後押しした。
高知の1年生エース森木大智は、高知中時代に150キロをマークした。川村准教授は高速化が低年齢の球児にも及ぶとみる一方で、危機感を募らせる。「投球のメカニクス(力学的な仕組み)が改善して球が速くなっても、筋力がついてこないと痛みが出る。体格が出来ている子どもが、どのくらいいるのでしょうか」