勝負は、難しい。
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去年の秋田大会の初戦。大館国際は四回、相手に先制を許した直後の攻撃で2死三塁とし、同点のチャンスをつくった。
沢田拓望(たくみ)君は2年生ながらスタメンに入った。打順は自分に回ってきた。こまちスタジアムには声援が響き渡っていた。いつも通り、いつも通り。言い聞かせながら打席に入る。
「1本頼むぞ!」。声援の中で、三塁走者の先輩、成田脩人(しゅうと)君の声がはっきり聞こえた。成田君は笑顔を浮かべていた。
「笑え!」
顔、そんなにガチガチかな……。一気に緊張が解けた。3球目、やや内角に入った直球をセンター前に返した。
一塁を走り抜けた後、三塁側を見ると、ベンチの監督や仲間、スタンドが同点に沸き立っているのが見えた。思わず右手を突き上げた。
その後、一度は勝ち越したが、終盤に大差をつけられ、敗れた。ロッカールームで泣き崩れていると、新沢敬太主将が声をかけてくれた。
「あそこで1本打ったこと、自信を持った方がいい。次につながる1本だ」
負けた悔しさの中に、希望が見えた。
◇
「次につながる1本」。実際は、簡単にはつながってくれなかった。
新チームになり、体制ががらりと変わった。主将になると同時に、チームの事情で、初めての捕手にも挑戦していた。
監督と選手たちの橋渡しをする一方で、捕手の動きを一から勉強する時間が必要になる。バッティング練習をおろそかにしたつもりはなかったが、打撃への自信は失われていた。
秋の大会は、まもなく定年退職する部長を県大会に連れて行こうと、みんな意気込んでいた。主将として、何とかチームを引っ張らなければ。
その気負いも裏目に出た。地区予選は2試合で計1安打。県大会への道が断たれた2試合目は、乱打戦の末に6―9。勝てた試合だと思った。試合終了のサイレンの音が今も耳に残っている。
悔し涙を流す仲間たちを励ました。監督と2人になり「どうだった?」と聞かれると、自分も涙をこらえきれなくなった。
「このチーム、勝ちきる力はあるぞ。実力がないわけではない。あとは、試合でどう発揮できるか、だ」。監督の言葉に、また前を向けた気がした。
◇
野球を通じて、色んな感情を知った。大勢の人に期待されるプレッシャー、応えることができたときの達成感、及ばなかったときの悔しさ、奮い立たせてくれる言葉……。気持ち一つで結果が変わる、勝負の厳しさも知った。
いい記憶だけでなく、苦しい記憶も忘れず、乗り越えた自信に変えたい。
秋の敗戦後はバッティング練習に力を入れた。最近、打撃の調子が戻ってきた。
大館国際は今大会の開幕試合を引き当て、10日に秋田と対戦する。
開幕試合は、これまでの試合とはまた違う緊張感があると思う。どんな展開になるのかは分からない。この3年間の集大成を、いい形で出したい。(野城千穂)