2019年はライブコマース元年と言われる。今年は新型コロナウイルスによる肺炎の突然の流行で「おうち経済」が生まれ、ライブコマースが注目の的となった。ネットで人気のライブ配信パーソナリティから全国民的なライブコマース人気まで、ライブコマースは中国に何をもたらしたのか、何を変えたのか。
ライブコマース経済はどれくらい人気か?
4月15日夜8時、オンライン旅行予約サイト大手の携程網を創業した梁建章さんがショート動画アプリ「快手」のライブ配信室に初めて姿を現し、江蘇省の観光ツアー商品をライブコマースで紹介した。公式データによると、1時間の配信時間で流通総額(GMV)は2201万元(1元は約15.2円)に達し、視聴者は累計のべ289万人、インタラクティブなやりとりをした人はのべ200万人近くに上った。
錘子科技の羅永浩最高経営責任者(CEO)がネーブルオレンジをチャリティ販売した当日、陝西省宜川県商務局の崔丹■(女へんに尼)副局長がショート動画アプリ「Tik Tok」でライブ配信し、湖北省宜昌市秭帰県の特産品の晩熟ネーブルオレンジの販売を支援したところ、視聴者は52万人に上り、販売量は30トンに達した。
河北省清河県でECプラットフォーム「拼多多」のサイト内店舗を営む李紀旺さんは、「拼多多」で自ら創立したカシミア衣料品ブランド「創爾」のライブ配信プラットフォームを立ち上げた。そこには6人のライブ配信パーソナリティがいて24時間切れ目なく配信を行い、開設してから50日で婦人服3万4千着を販売した。フォロワーは0人から270万人に増えたという。
初期のネット有名人によるライブコマースから、「村のライブコマース」、政府指導者が友情出演して貧困者支援のために農産品セールスをライブ配信するものまで、ライブ配信パーソナリティになる人がどんどん増え、デパートの販売員やスーパーのショッピングガイドまで、あらゆる人々がライブコマースに初挑戦している。
データ分析機関の艾媒諮詢(iiMedia Research)のまとめたデータでは、19年の中国のオンラインライブ配信業界のユーザー規模は5億400万人に達し、成長率は10.6%だった。20年も高い成長率を保ち、ユーザーは5億2600万人となり、ネットユーザーの半数を超えることが予想される。
「歯牙にもかけない」から投資分野へ
ライブコマース経済の人気は、態度を決めかねていた企業にも重い腰を上げさせることになった。以前はライブコマースを歯牙にもかけなかった企業が、今やこれこそが新しい商機ということに気づいている。
167年の歴史をもつ老舗靴店の北京内聯昇鞋業有限公司は、今ではライブコマースを使いこなしている。同社の程旭副社長は感染症が発生するまではずっとライブコマースを歯牙にもかけなかった。「以前はライブコマースは北京の卸市場での買い物案内みたいなもの、あるいはテレビショッピングのようなもので、レベルが低いものと考えていた。しかし周りの女性社員が淘宝(タオバオ)のライブコマースでさまざまな化粧品さらには金のネックレスなどを買うようになり、そして感染症の影響で全国80数都市で実店舗が軒並み休業した時、初めてライブ配信の流れが来たと感じた」という。
程氏は、「ライブコマースはオンラインショッピングを促すだけでなく、同じようにオフライン店舗にフローをもたらすとともに、ライブ配信を通じてユーザーのロイヤリティ(忠誠度)を一層高め、ブランドの文化的背景をより詳しくユーザーに伝えることができる。16年に淘宝と業界の枠を超えたコラボレーションを模索して以来のライブコマースで、阿里巴巴(アリババ)のECプラットフォームでの新たな飛躍でもある」と述べた。
ライブコマースはなぜ消費を活発にできるのか?
ライブ配信とECが合体した新たなネット通販スタイルとして、ライブコマースは感染症の流行中に爆発的に成長した。表面的には、ライブコマースは従来のテレビショッピングといくらか似ている。商品を写真や動画で見せ、注文すると宅配で家に届く。それではますます多くの消費者が「配信室」に注目するようになったのはなぜだろう。
ライブコマースの人気は、そこに参加している、体験していると強く感じられるところにある。より直感的に、より詳しく、より立体的に商品を見せることで、失敗の確率を効果的に下げることができる。プロの人がオンラインで説明することで、より強い牽引力を備えるとともに、時間コストも効果的に抑えられる。またお年玉の雨あられ、ショッピングチケット、時間限定でいくらいくら買えば割引きなど……価格をめぐるさまざまな仕掛けが消費者をより強く引きつける。
ライブコマースは何を変えたか?
ライブコマースの背後で、従来のビジネスモデルに変化が生じている。第一に、ブランドの影響力が弱まった。これまでブランドはその影響力により、多くの消費者の買い物の決定を左右してきた。しかし情報が爆発的に飛び交う時代の中、消費者の関心は分散した。同じプラットフォームの中でも、広告は極度に細分化した。そのためブランド一人勝ちの状態は終わり、多様化が新たなトレンドになった。アルゴリズムプラットフォーム、ライブ配信のネット有名人、友人のすすめ、ブランドが一体となって、消費者が買い物を決定するときのよりどころになる。
第二に、消費チェーンがますます短くなった。ブランドの影響力が低下し、ライブコマースの量が増大し、ライブ配信パーソナリティの中には中間ルートを飛ばして、メーカーから直送する人も出てきた。供給チェーンのすぐ近くに拠点を移した人もいる。企業家が自分でイメージキャラクターになることもある。こうした動きは供給チェーンの柔軟性を極限まで発揮させる。柔軟性とは、ニーズの変化に基づいて素速く反応する能力だ。これまで商品は販売業者、卸売業者を経てはじめて消費者の手元に届いていた。しかし今では、ライブ配信パーソナリティは売りながら注文を取り、ライブ配信が終わるとすぐに発注し、工場にただちに出荷してもらう。こうした「ニーズをはかり、資金を回収し、商品を発送する」モデルは、物流コストと倉庫のコストを引き下げ、資金の流動を加速させる。また生産能力は高いが、研究開発力は弱いという企業が多い。ライブ配信はちょうどよい具合に、市場の鼓動を間近に感じることができ、企業の研究開発力を高めることができる。
「新経済」のドアを開く
ライブコマースがさらに進化したことから、「新インフラ」が唱導するデジタル化経済の価値が十分にうかがえる。淘宝と天猫(Tmall)の蒋凡社長は、「淘宝のライブコマースは新経済のドアを開いた」と述べた。
3月30日に発表された「2020年淘宝ライブコマース新経済報告」によると、19年の淘宝のライブコマースのユーザーは4億人に上り、フォロワーとの双方向のやりとりはのべ200億回を数え、取引額は2千億元に達した。19年末現在、消費者の1日あたりコンテンツ視聴時間は35万時間分に上り、ライブ配信室がある場所は世界73ヶ国の工場、農村、商店、デパート、街角、市場に及んだ。
アナリストは、「ECを含むデジタル経済が実体ある小売業に移転、打撃、破壊をもたらしただけでなく、刺激したり誘導したりする役割もある程度は果たしている。ECのライブ配信、達人によるライブコマース、ネット人気者の人気商品が『2回目の爆発』の中で新たな成長源になりつつある。ライブコマースはこれからEC、ブランド、業者にとって標準装備になり、浸透率が急速に上昇するだろう」との見方を示す。(編集KS)
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「人民網日本語版」2020年4月20日