作家・花村萬月氏の芥川賞受賞作「ゲルマニウムの夜」が映画化された。一昨年「赤目四十八瀧心中未遂」で話題をさらった荒戸源次郎氏(58)が製作総指揮に当たり、舞踏家で俳優としても活躍する麿赤兒(62)の長男・大森立嗣(35)が初監督に挑んだ。荒戸氏は東京・上野の東京国立博物館敷地内に「一角座」と命名した劇場を建設、既成の上映システムにとらわれない形態で一石を投じる。
芥川賞の選考にあたった委員たちに「まさに冒涜(ぼうとく)の快感を謳(うた)った作品」と言わしめた「ゲルマニウムの夜」。殺人を犯し、育った修道院兼教護院に舞い戻った青年・朧の日々を描いた衝撃的な内容が話題を呼んだのは7年も前になる。
映像化不可能ともいわれてきた小説に、あえて挑んだのは荒戸氏だった。しかも、大森立嗣という新人にメガホンを委ね、主役にも初主演となる新井浩文(26)を起用して、2月にクランクイン。完成した作品は、原作の持つ危険なにおいをストレートに投影し、また、おくすることのない描写の数々が心にズシリと響いてくる。
佐藤慶(76)、石橋蓮司(64)、広田レオナ(42)といったベテランも大森監督の振るタクトに身をささげた。父、そして弟にも俳優の大森南朋(33)を持つ監督は「こういう感じに撮ればお客さんが入るんじゃないか、といった迎合型の映画が最近やたらに目についた。だから、自分の映画を作ろう、と自由にやらせてもらった」と振り返る。
「赤目」や崔洋一監督の「血と骨」などで実力を養ってきた新井とは10代からのつきあい。「あうんの呼吸」と監督が言えば、新井も「何か身内みたいな感じ。うまく言えないけれども共通の言葉を持とうぜ、と誓って入った現場はとてもやりやすかった。石橋さんやベテランの方たちにも、全然遠慮なしの演出にはすごみも感じました」と語った。
メディアプロデューサーの羽仁未央さん(40)が海外への紹介役を引き受け、またネット配信やさまざまなイベントも企画。ゲルマ祭りの趣きで11月26日に公開予定だ。
≪国立博物館そばに専用上映館≫荒戸氏がみたび動いた。東京タワーの下に可動式のドーム劇場を建て、鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」を上映したのが1980年。阪本順治監督の「どついたるねん」を原宿駅そばで公開したのは89年のことだった。
あれから16年。今度は東京国立博物館の西門そばに「一角座」を建てる。もちろん「ゲルマニウムの夜」を上映するためだけの劇場だ。収容人員は約150人。「ユニコーンからというより、イッカククジラが名前の由来」と荒戸氏は説明。
「未公開の映画が100本を超えている。作りっぱなし、産みっぱなしの製作側に問題はないのか。未公開の作品が増えると、配給側も映画を吟味しなくなる。映画を映画として扱わない配給側に問題はないのか。製作・配給・劇場を一貫させることで、そんな現状に一石を投じたい。最短でも半年間のロングランは約束します」と荒戸氏は強調した。
スポーツニッポン 2005年9月17日