王子製紙と北越製紙の買収戦で、王子が「妥協」に動いた背景には、全面対決の構図で株式公開買い付け(TOB)を強行しても成功する保証はなく、感情的な禍根を残せば、期待した統合効果が上がらないリスクも高まるという、「マイナス効果」を考慮したためと見られる。ただ、北越は今回の「妥協案」も拒否しており、王子はTOBに突き進むか否か、決断を迫られる。
王子は自社による統合提案を公表した23日、北越に対するTOB実施の前提条件に、北越が三菱商事を引受先に予定している増資を撤回することを挙げていた。ただ、北越は増資の撤回を拒否しており、王子は北越が増資を行った場合でも、TOBを行う構えをみせている。
しかし、実際に増資が行われて三菱商事が北越株の24%を保有してしまうと、王子が経営権取得のために目指した北越株の過半数取得のハードルも高まってしまう。北越自身が買収防衛策を発動したり安定株主工作を行うなど、TOB不成立に向けて動くことは必至で、三菱商事も静観を決め込む可能性が高いからだ。50%確保を巡る攻防が泥沼化すれば、たとえTOBが成功しても、北越社員の離反を招きかねない。
このため、王子は、成立が微妙なTOBを実施するかどうか正式に決める前に、まず「妥協案」を提案して北越の真意を探り、軟着陸の余地があるか確かめる必要があったとみられる。ただ、北越は29日、改めて「増資及び業務提携を撤回する意思はない」とのコメントを発表。対立は決定的となった。
だが、北越が王子の「妥協案」を拒否したことで、「王子がTOBを実施する口実ができた」(証券業界関係者)と見る向きもある。王子は「やるべきことはやった」としてTOBに踏み切るのか、別の妥協案を示して落としどころを探るのか。王子の対応に注目が集まっている。【小原綾子】
毎日新聞 2006年7月29日