欧州はウクライナ問題を抱えていると思っている。だが実際には、ロシア問題、より正確に言えば、ウラジーミル・プーチン問題を抱えている。キエフ(ウクライナ政権)に対するモスクワの戦いは、より大きな絵のほんのひとかけらだ。プーチン大統領の失地回復主義は、ウクライナを越えて広がっている。大きな目標は、欧州の共産主義後の合意を破り捨てることだ。
ロシアのプーチン大統領。閣僚との会議で(4日、モスクワ近郊)=AP
ロシアと対峙することをためらう欧州の姿勢は、容易に説明できる。経済的な利己心、歴史、文化的な親近感、普段は隠れている反米主義――そうしたものから、欧州の多くの人はプーチン氏を、ソ連崩壊が20世紀の地政学的惨事と信じている指導者としてではなく、自分たちが望んでいた指導者として見ている。
失敗続きの中東介入で懲りた西側にとって、つい頼りたくなる説明がある。プーチン氏の要求が時として挑発的だとしても――また、ウクライナだけでなくグルジアの場合もそうだったように、完全な攻撃に発展することがあるとしても――、西側は事情をはっきり意識しておくべきだろう。もしかしたら、北大西洋条約機構(NATO)は本当に旧ソ連衛星国の受け入れに関する約束を破ったのではないか? NATOはセルビアを爆撃したときにルールを曲げたのではないか? イラク戦争については、まあ、これ以上言わなくてもいいだろう。
クリミアの編入とウクライナのドンバス地方への侵攻は、さまざまな疑念を払拭したはずだ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相の場合、それが起きたようだ。メルケル氏は交渉より対立を好むような政治家ではない。あまりに多くの嘘をつかれ、あまりに多くの約束を破られ、気持ちが固まった。
■プーチン氏の支持、欧州内でも
だが、欧州内の論争は終わっていない。ギリシャの急進左派連合政権が示したロシア政府への共感については、盛んに取り沙汰されている。これだけではない。イタリアのマッテオ・レンツィ首相は、プーチン氏への忠誠を誓うことにかけてはシルビオ・ベルルスコーニ元首相の上を行っている。
ハンガリーのビクトル・オルバン首相は公然と自由民主主義を軽蔑している。キプロスは常にロシアの立場に味方するし、制裁体制に対するフランスの同意は生半可だ。だから、誰もロシアの直近の攻撃姿勢に驚くべきではない。クレムリンに対する挑発としては、融和ほど強力なものはないのだ。