季節は冬真っ盛り。家にいると底冷えすると嘆いている読者も多いだろう。では、住宅の断熱性能をアップしたい場合、どこから手をつければいいのか。一般に断熱材の仕様から考える人が多いが、本当は(1)窓、(2)換気、(3)外壁の順に考えるべき。松尾設計室(兵庫県明石市)の松尾和也氏が、その理由をわかりやすく解説する。(日経ホームビルダー編集部)
高断熱の重要性について講演すると、「どんな断熱材を使ったらいいですか」と質問されることが多々あります。しかし、この質問は大切な要素を飛ばしています。「どこから断熱を強化すべきですか」というのが、最初にあるべき質問だと思います。
コストパフォーマンスが最も高いのは、なんといっても窓です。その次は、「自然給気+機械排気」の第3種換気を、「機械給気+機械排気」の第1種換気に変えることです。外壁の高断熱化は、コストパフォーマンスの観点で見ると3番手になります。
それなのに、断熱材の種類に関する質問が多数を占め、しかも厚さを尋ねない場合が大半です。ここから想像すると、高断熱化は壁や屋根の断熱材をグラスウール充填断熱からボード状断熱材に移行すること、もしくは外張り断熱に移行すること、といった先入観があるようです。
また、こうした質問をする人は、熱伝導率と厚さの関係で導かれる「熱抵抗値」こそが重要なことを理解していないようです。
■断熱性が低い窓
省エネ基準の計算方法が改正され、「外皮平均熱貫流値(UA値)」が導入されました。これは外皮(外壁・床・天井・屋根・窓・ドアなど)全体の「熱貫流率」を平均したものです。一般に断熱性能は、熱貫流率という指標で比較されます。これは「U値」とも言われ、単位はW/m2(平方メートル)Kです。内外の温度差1℃の場合において1m2当たり貫流する熱量を表し、小さいほど熱の出入りが少なく高性能であることを意味します。
話を単純化するために、平面が3.6×3.6m、天井高が2.4mの単室の平屋を考えてみましょう。床、屋根、天井とも、熱伝導率0.038W/mKのグラスウールを厚さ100mmで使うと、熱貫流率(U値)は0.038W/mK÷0.1m=0.38W/m2K。一方、窓はアルミ枠のシングルガラスでU値は4.65W/m2Kとします。最近の新築住宅はこの程度の水準が最も多いと思います。
ここで外皮の表面積は60.48m2で、窓面積は3.3m2、窓以外の面積は57.18m2です。すると、UA値は「0.38×57.18/60.48+4.65×3.3/60.48=0.36+0.25=0.61」となります。この計算式から読み取れるのは、窓面積に対して窓以外の面積が約20倍もあるのに、壁から熱が逃げる量(0.36)は、窓から熱が逃げる量(0.25)の2倍もないということです。つまり、窓の断熱性が極めて低いということが分かります。
■コストアップ大きい断熱材強化
では、「窓強化型」と「断熱材強化型」という二つの断熱性能の向上方法について比較してみましょう。
窓強化型では、現時点でコストパフォーマンスが最も高い、樹脂サッシのLow-E(低放射)複層ガラス仕様で実質U値が1.7 W/m2Kの製品に変更してみます。この場合のUA値は、上記と同様の計算を行うと0.45となります。
次に、窓はそのままで断熱材の厚さを増すことで、窓強化型と同等の断熱性能を確保する「断熱材強化型」を検討してみます。すると、窓以外の断熱材の厚さを180mmと、元の1.8倍にしなければならなくなります。
コスト面から言うと、延べ面積が120m2程度の標準的な住宅で、窓強化型のコストアップは30万円程度です。それに比べて断熱材強化型は、熱伝導率が半分程度の超高性能断熱材を採用しても、グラスウールを付加断熱しても、コストアップ分はいずれも窓強化型の3倍程度になることが多いです。
■窓の表面温度は3℃の差
ここで外気温を0℃、室温を20℃とした場合の各部位の平均温度を見てみましょう。
外気温0℃、室温20℃とした場合の各部位の平均温度を、窓強化型と断熱材強化型で比較した(資料:松尾和也)
断熱強化型のシミュレーション画像。窓で冷やされた空気が床近辺にたまり、動き始める(資料:松尾和也)
壁などの表面温度は0.4℃の差しかありませんが、窓の表面温度は3℃もの差があります。窓強化型は冷輻射(より温度が低いものに熱が奪われる現象)がないのはもちろんですが、床付近の温度も高く保ちやすくなります。
U値が4.65W/m2K程度の窓だと、窓付近の空気は冷やされます。冷やされた空気の比重は重くなるので床近辺にたまり、そして動き始めます。下の図は、その瞬間をシミュレーションした画像です。
空気の重さは、温度によって右の表のように変わります。わずかな比重の差に見えるかもしれませんが、たったこれだけの比重差でも重いものは下に向かい、軽いものは上に向かいます。