【モスクワ=石川陽平】ウクライナのポロシェンコ大統領は18日、親ロシア派武装勢力との激しい戦闘が続いていた同国東部の要衝、デバリツェボから政府軍が撤退したことを明らかにした。停戦合意をまとめた独仏ロ、ウクライナの4首脳は同日中に、電話協議で事態収拾策を探るが、ロシアは親ロ派が支配地域を広げた現状の追認を迫るとみられる。ポロシェンコ氏やメルケル独首相、オランド仏大統領がどう対応するかが焦点になりそうだ。
18日、東部デバリツェボ付近から撤退するウクライナ軍の兵士ら=ロイター
ロシアの国営第1チャンネルは18日、親ロシア派武装勢力が制圧したデバリツェボの高台で赤と青を基調とした親ロ派地域の旗を掲げる映像を放送した。政府軍部隊は撤退時、親ロ派の攻撃を受けたもようで、多数の死傷者が出たと伝えられた。多数のウクライナ軍がデバリツェボに取り残されているとの情報もある。
東部ドネツク州のデバリツェボは州都ドネツクの北東に位置し、親ロ派が支配下に置くドネツクとルガンスク、北はキエフ、南はロシアと結ぶ幹線道路や鉄道が交差する交通の要衝。親ロ派にはデバリツェボ制圧で、補給ルートを確保し、ドネツクへの攻撃を防ぐ狙いがある。ウクライナ軍は何千人もの兵力を集中させて死守してきたが、親ロ派に包囲されつつあった。
東部の停戦は、11~12日にベラルーシの首都ミンスクで開いたドイツとフランス、ロシア、ウクライナの4カ国首脳会議で合意内容を調整。親ロ派とウクライナ政府、欧州安保協力機構(OSCE)、ロシアの代表が12日、ミンスクで15日からの停戦や重火器類の引き離しなど13項目からなる包括的措置を定めた合意文書に署名した。
ただ、デバリツェボの支配権を巡っては、親ロ派とウクライナ政府の溝が埋まらず、15日の停戦発効後も親ロ派の攻勢が続いた。親ロ派はデバリツェボの包囲が12日の停戦合意の前に完了し、自らの支配地域に入っていたと主張。政府軍が「親ロ派が停戦合意を破った」と厳しく批判するなかでデバリツェボを支配下に入れた。
デバリツェボの陥落で、停戦合意は崩壊の危機に直面している。ポロシェンコ大統領は欧米の首脳らと東部情勢を協議し、停戦の継続の是非を決断する考えだ。同大統領は14日、「きわめて重大で不可欠な戒厳令を発令する決定」を下す可能性にも言及しており、米国に殺傷兵器の供給を改めて求める意向だ。
デバリツェボ以外の東部地域では、停戦はおおむね守られているもようで、タス通信によると、親ロ派は18日「いくつかの地区で(政府軍との)境界線から重火器類の引き離しを始めた」と語った。
ウクライナ東部は親ロ派住民が多く、2014年2月にキエフで起きた親欧米派による政変への反発が広がった。行政庁舎などを占拠した親ロ派武装勢力に対し、政府軍が4月に「対テロ作戦」を宣言。国連によると、東部の紛争で約5700人が死亡した。親ロ派は東部地域の約3分の1を支配し、1月に入り攻勢を強めていた。