2019年のラグビー・ワールド杯(W杯)の開催地に決まった岩手県釜石市は今後「スポーツを通じた復興」に一段と力を入れる。スタジアム建設や財源問題など克服すべき課題は多いが、野田武則市長は「小さな街の挑戦が三陸全体の再生と住民の未来への希望につながる」と話す。世界が注目する一大イベントの開催を、復興の推進力につなげたい考えだ。
「やったぁ!」「来たぁ!」「よしっ!」。2日午後9時40分過ぎ、釜石市の開催地発表中継会場では、札幌市に続き「岩手県……」と読み上げられた瞬間、集まった150人を超す市民らが一斉に歓喜の声を上げた。
誘致に取り組んだ市民団体の中田義仁代表(46)は「子どもたちに夢を与えることができて良かった。早速今年のイングランドW杯に子どもたちを派遣したい。今後も気を引き締めて大会を成功に導く」と語った。
釜石市はかつて新日鉄釜石(現釜石シーウェイブス)が日本選手権7連覇を達成した「ラグビーの街」だ。市は昨年、「近代製鉄発祥の歴史とスポーツを生かし、誇りを持てる街づくりを進める」として県と共同で開催地に立候補した。仮設住宅に暮らす市民からは「住まいの再建が先」との声も出たが「やはり前に進もう」と決意した。
19年開催という区切りが定まったことで、今後は復興の一段の加速が重要になる。釜石市では、必要とする復興公営住宅1300戸のうち約370戸が3月までに完成する。残りも18年3月までにできる計画だ。
野田市長は「(W杯を)支援を寄せていただいた世界の人々に、釜石がここまで復興した姿を見せ、感謝の気持ちを伝える場にしたい」と強調する。そのためにも「W杯までに復興を終わらせる」ことの重要性が高まった。
大きな課題はコスト。開催が決まった12都市の中で唯一スタジアムを新設する必要がある。市は被災した釜石東中と鵜住居小の跡地に整備する小規模施設「釜石鵜住居復興スタジアム」(仮称)に仮設スタンド1万4千席を増設して対応する。
建築費30億円のうち市の負担は10億円弱と試算するが、資材や人件費の高騰で膨らむ可能性もある。大会運営費などの負担も見込まれる。国や日本スポーツ振興センター(東京・港)からの補助金のほか、広く寄付なども募る考えだ。
釜石だけの催しに終わらせず、復興の象徴として東北全体で盛り上げる視点も大切だ。釜石以外の地域が競技場の整備が不要で経済効果も見込めるキャンプ地として名乗りをあげ、釜石と連携することにも期待が高まる。