アルゼンチン、ブラジル、メキシコでは大統領職は汚職スキャンダルで汚れた存在だ。チリはボリビアと対立している。ベネズエラは長期的な危機状態にあり、コロンビアとの国境には高利益のガソリン取引に精を出す密輸業者がはびこっている。中米は麻薬密売のせいで地球上で最も危険な場所となっている。また「キーストーンXLパイプライン」を巡る論争でカナダと米国の関係が冷え込む一方、カリブ海諸国は財政的に不安定なままだ。
米州首脳会議へ向け準備が進む会場(6日、パナマシティー)=AP
これらは、この地域の首脳が今週パナマで開かれる米州首脳会議で話し合うことになる近隣国同士の問題のほんの一端にすぎない。同首脳会議のテーマは「米州諸国間の協力における課題」となっているが、これはさらに皮肉だ。実際のところ、すでに一致の見解となっているのは今回の会議では誰からも合意は得られず、よって最終声明は出ないだろうということで、これは互いに支え合うことの解釈としては、変わった意味のとらえ方だ。
とはいえ、今年の米州首脳会議(4年に1度開催)はまさに歴史的なものだ。米アイゼンハワー政権時代以来、米国とキューバの首脳が公式に会うのはこれが初めてになるからだ。中南米の主張による両国首脳の同席は米国とキューバが始めた外交関係再構築の動きを伴っている。和解と米国の禁輸解除の見通しにより、中南米諸国が一致できる数少ない中のひとつであるお決まりの反米感情が和らいでいる。
■経済の陰り、政治的に影響
さらに重要なのは、今回の首脳会議が世界経済の著しい変化と時を同じくしていることだ。ここ10年で初めて、グローバル資本主義を形成する諸要因が南米よりもむしろ米国に有利に作用している。原材料商品の「スーパーサイクル」は中国経済の減速とともに陰りをみせており、終わりなき成長を保証する万能薬のように見えたものは、実現しそうもない考えにすぎなかった。チリやコロンビアのような管理の行き届いた国の経済でさえも急速に減速しており、アルゼンチンやブラジル、ベネズエラのような浪費型国家は、商品ブームに隠れて目立たなかった管理の誤りが暴かれたことでもっと苦しい状態に陥っている。
この経済変化は、政治的にも強い影響をもたらすだろう。特にベネズエラが率いる左派の米州ボリバル同盟(ALBA)のような国々で最も強い反米感情が幾分か弱まるはずだ。その他にとっても米国との関係を見直すきっかけになるかもしれない。中南米諸国は最近中国との外交に力を入れてきた。ブラジルで多くの問題を抱えるルセフ大統領が2年前に米国に電子メールを傍受されたことを理由に中止した米国への公式訪問を再開したいと述べたのは、時代のすう勢を示す兆候なのかもしれない。
概して、米州諸国は現在、回復力のある政治的民主主義とほどよく管理された経済、商業的な結びつきの拡大を享受している。ただし、悲しいかなベネズエラは例外だ。そしてさらに悪いのは、他の中南米諸国がベネズエラを自分たちの民主主義の水準に引き上げようと試みてもせいぜい控えめな程度にとどまるか、多くはその試みも全くないことだ。中南米は世界でより大きな役割を担いたいとしばしば主張するが、この情けない状況のせいでその主張の余地は徐々になくなってきている。
だが、米国の外交もあまり改善していない。米国は3月9日、同国の「国家安全保障に対する大きな脅威」との法的解釈の下、人権侵害の罪を犯したとみなしたベネズエラの高官7人に対して制裁を科した。このような適切でない文言を受けて、中南米ではベネズエラのマドゥロ大統領への同情が広がった。
こんなことは非常にばかげている。ベネズエラは自国に対してのみ安全保障の脅威でしかない。もし米国では、ある国全体が脅威であると宣言することでしか外国の高官に制裁を科すことができないのなら、そうした法制度を変えるべきである。どこで行うにしても、協力を改善する一番の方法は、まず国内からそれを行動に移すことだ。
(2015年4月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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