【バンコク=小谷洋司】タイ中央銀行は29日、2カ月連続の利下げを決め、即日実施した。輸出や民間消費の復調が想定以上に遅れ、景気の腰折れ懸念が強まっていることに対応した。軍事政権は「経済は回復基調にある」と実績をアピールしてきたが、デフレ懸念も浮上するなど景気回復の足取りはおぼつかない。
タイ中銀は金融政策委員会を開き、政策金利(翌日物レポ金利)を年1.75%から1.5%に引き下げた。自国通貨バーツ安を誘導し、輸出を促進する狙い。利下げは今年2度目だ。中銀は声明で「前回(3月)会合時の見通しに比べタイ経済の回復ペースは鈍るとみられる」と指摘した。
政策委は賛成5人、反対2人の賛成多数で利下げを決めた。前月の利下げ(2%から1.75%)は賛成4人、反対3人で決めた経緯がある。委員の間でもタイ景気の二番底懸念が強まっていることをうかがわせる。
中銀の声明によると「輸出と民間消費が想定以上に弱く、公共投資や観光業の持ち直しでは補いきれない」。3月の輸出額は前年同月比4.5%減の188億8600万ドル(約2兆2500億円)と、3カ月連続で前年実績を下回った。主力農産物の天然ゴムなど農産物価格と原油価格の落ち込みが響いた。
民間消費の低迷は、前政権が実施した自動車販売促進策の副作用などで家計債務が膨らんでいることが主因だ。名目国内総生産(GDP)に占める家計債務残高比率は昨年末時点で約86%と1年前に比べ4ポイント上昇した。
需要の冷え込みを受け、デフレ懸念も出始めている。中銀はデフレという言葉を避けつつも「負のインフレが長引くリスクが強まっている」と指摘。ティスコ証券シニアエコノミストのサラン・スナンサタポーン氏は「物価は非常に憂慮すべき状況だ」と話す。
代表的な株価指標であるタイ総合指数は29日、前日比0.6%安で取引を終えた。今週に入り3日連続の下落で先週末比2%強下げている。
頼みの綱だった公共投資は予算執行の遅れなどで景気を十分に下支えできていない。タイは東南アジア最大のもの作り拠点として、自動車メーカーをはじめ日本の製造業が集積する。タイ経済の復調の遅れは日系各社の収益にも影を落とす。