その原油価格の急騰はあまり広く注目されはしなかった。1月以降、指標とされる北海ブレント原油は1バレル47ドル未満から1バレル65ドル以上に約40%値上がりした。
原油価格の上昇幅は最高値だった昨夏の1バレル115ドルを超える水準からの下落分の3分の1にも満たないが、この値上がりが債券・株式市場を既に揺るがし始めた兆しが出ている。
油田に設置されたオイルジャッキ(コロラド州デンバー)=ロイター
原油価格は急速に反発しているが、それがさほど長くは続かないと予想できるもっともな理由がある。米国のシェールオイル産業は、原油価格の上昇局面で市場により多くの原油を供給し、価格上昇を抑える世界の「スイング・プロデューサー」として台頭してきている。このため、価格はおそらく1バレル100ドルに全く届かない水準にとどまるだろう。
投資利益を求める企業であれ、予算の帳尻合わせが必要な国であれ、高い原油価格に依存している生産者は、やっていくことが徐々に厳しくなっているのに気付くだろう。
今年の原油価格の回復は米国での掘削活動の落ち込みにけん引されたもので、これにより産出量が減少する見込みが高まった。需要が高まる兆しが特に中国で見られ、リビアの輸出が滞ったことも相まって、市場が引き締まるという見方が高まった。
一部のアナリストは、この価格上昇は時期尚早で、世界では原油がまだ供給過剰であることから近いうちに価格は再び下落に転じると指摘する。
それが正しいかどうかは別として、原油価格の上昇が限定的になる根本的な理由が他にもある。米国では掘削活動が近いうちに再び活発化することが予想される。米国で再度増産される見込みから原油価格の回復は制限されるだろうということが仮定として論じられたことはあったが、この1週間でそれが現実になってきたことを裏付ける兆候が見られた。
■掘削再開に言及し始めた米主要企業
先週の一連の決算報告で、昨夏から掘削活動を大幅に削減してきた米国のシェールオイル産業の主要企業の一部が掘削活動の再開に言及し始めた。ノースダコタのバッケン地区で掘削する有力企業、コンチネンタルリソースのハム最高経営責任者(CEO)は、「我々にとっては70ドルがその目安になる」と述べた。
原油価格の下落で米国のシェールオイル生産者が市場から淘汰されるという予測は2つの要素を見落としていた。投資家がシェール産業への投資を引き続き行っていく意欲を持っていることと、技術の進歩により生産コストが低下し続けたことだ。
今や米国のシェールオイルが世界のエネルギー勢力図において恒久的な主要参加者としての地位を確立していることは明らかであり、ライバルの生産者は米シェールとどううまくやっていくかを学ぶ必要が出てくるだろう。シティグループによると、ロシアが予算の収支を合わせるには1バレル90ドルでなければならず、イラクは98ドル、サウジアラビアは105ドル、イランは137ドルだ。これらの国々は原油価格が長期にわたりこれらの水準を下回ったままであれば、痛みを伴う改革を行わなければならなくなるだろう。また、政情不安リスクも高まる。
石油市場では何一つ永遠に続くものはない。やがて米国のシェールオイル生産は頭打ちになるだろう。一方、世界の需要はこの先数十年間増え続ける見込みだ。地政学的リスクにより世界の供給はいつ何時滞るか分からない。それでもしばらくの間は、石油市場は予想よりも長い期間、低価格の水準で均衡するだろう。
ハム氏は先週、「我々は今、歴史的な時期を生きている」と語った。同氏がますます正しいと思えてくる。
(2015年5月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
(c) The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.